2011 Fiscal Year Annual Research Report
病傷害を受けた樹木辺材の木部細胞内腔に沈着する化学構造分析
Project/Area Number |
11J02523
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山ギシ 崇之 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ナラ枯れ / 閉塞物質 / IR-SNOM |
Research Abstract |
本研究では、ナラ枯れを受けたコナラ辺材部において、一部の細胞壁に密着して存在が観察される、閉塞物質と呼ばれる分泌物の化学構造解析を目指してきた。本研究の目的の達成には、閉塞物質自体を直接分析する必要がある。しかし木繊維中の閉塞物質は径10μm程度であり、化学分析によって定量可能な最低量1mgを集めるには、数百日程度かかると推定される。そこで化学分析に先立って、IR-SNOM(近接場赤外分光装置)を用いた赤外吸収スペクトル分析を試みた。 IR-SNOMは1μmの空間分解能で赤外吸収スペクトルが測定可能な分析装置である。IR-SNOM用の木質試料の調製法は確立されていない為、試料に応じた試料調製法を独自に考案しつつ測定を試みた。IR-SNOMに搭載されているAFM機能を用いて、閉塞物質の一部を測定用プローブに付着させて測定を行ったところ、そのスペクトルはエステル由来の吸収ピーク(1750cm^<-1>)が強い反面、C-H結合伸縮振動由来の吸収帯(3000-2850cm^<-1>)が弱い特徴を有していた。また、木質組織を顕微鏡下で組織毎に手作業で分ける事で、木部繊維や放射柔組織由来のスペクトルを得る事に成功した。両者は低波数側で微妙なスペクトル波形の違いが見られたが、これら木質組織由来のスペクトルは閉塞物質由来のスペクトルと大きく異なっていた。樹木成分に関連した成分については、溶媒に溶けた、もしくは分散した試料をアルミ鏡面上に噴霧した試料を作成して測定した。その結果、閉塞物質で見られたC-H結合伸縮振動由来の吸収が弱い特徴はタンニン酸やカテキンで確認され、エステル由来の吸収が強い特徴はペクチン(1750cm^<-1>)やタンニン酸(1720cm-1)で確認された。しかし閉塞物質由来のスペクトルと同じ波形を示すものが樹木成分に関連した成分で確認されなかった事から、閉塞物質は単一な成分より寧ろ、数種の成分の混合物として存在していると推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究計画では、第一段階としてIR-SNOM等を用いた顕微分光分析、第二段階として、閉塞物質の直接採取法の確立と、採取した閉塞物質の微量化学分析を予定していた。第一段階としての計画は大部分が完了したと考えられる一方で、第二段階としての計画の伸展は順調ではない。これは閉塞物質を効率よく集める手段の検討が完了していない為である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では引き続き、病傷害によって新しく形成される閉塞物質の非破壊的な分析、及び定量分析に供する閉塞物質の回収方法の検討を行う。非破壊的な分析は顕微ラマン分光分析による検討を追加する。閉塞物質の回収については、閉塞物質を比較的迅速に取り出す手法を早期に考案する事で、研究の遂行を迅速に進める。これまでの検討で、抽出成分及びペクチンが閉塞物質に存在する可能性がある為、1mg程度の試料が集まれば、樹木成分における微量分析に供する予定である。微量な試料では不可能な定量分析を遂行する為に、閉塞物質を多量に簡便に回収できる試料作成法を検討する。具体的には、閉塞物質が多く含まれる領域から、組織の比重の違いによって試料を分画し、その中から閉塞物質の性質を強く示す分画を探索したいと考えている。その後は、閉塞物質を分泌する放射柔組織の応答を化学分析から明らかにしていく予定である。
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