2012 Fiscal Year Annual Research Report
病傷害を受けた樹木辺材の木部細胞内腔に沈着する物質の化学構造分析
Project/Area Number |
11J02523
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山ギシ 崇之 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | IR-SNOM / ナラ枯れ / 病傷害 / 閉塞物質 / SEM-EDXA / タンニン / 反応障壁 / 防御反応 |
Research Abstract |
本研究では、ナラ枯れを受けたコナラ辺材部において、樹木側の防御反応によって細胞内腔に沈着する、閉塞物質と呼ばれる分泌物の化学構造解析を目指してきた。これまでIR-SNOM(近接場赤外分光装置)と呼ばれる、1μmの空間分解能で赤外吸収スペクトルが測定可能な装置を用いて、閉塞物質の性状について検討した結果、閉塞物質はペクチン及びタンニンなどに共通した特徴を有している事が示唆された。また、閉塞物質は単一な成分より寧ろ、数種の成分の混合物として存在していると推測された。コナラ辺材の病傷害領域から作成した試料の有機元素分析により、閉塞物質が存在する領域では他の領域よりも炭素含有量に対する酸素含有量比(O/C比)が低い傾向がある事を既に報告している。しかしながら、閉塞物質が炭素含有率の増大に寄与しているかどうかを明らかにするには、閉塞物質を直接元素分析する必要がある。また、閉塞物質構成成分を考慮すると、例えば土壌中から溶出した鉄などの金属元素が水分通導により樹木中に運ばれ、木部細胞壁の内腔に分泌された閉塞物質由来のタンニンなどのポリフェノール構造と錯体を形成し沈着している事が想定される。その為閉塞物質に含有する無機成分について検討する必要がある。そこで本研究では、エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDXA)を用いて、細胞内腔に存在する閉塞物質に含まれる元素を直接検討する事とした。SEM-EDXAを用いて、試料面から得られた炭素由来の特性X線強度に対する酸素由来の特性X線強度の割合をO/C比とみなすと、閉塞物質を直接分析して得られたO/C比は、隣接した細胞壁のO/C比よりも低い事が確認された。この事は、O/C比の低下に寄与する成分として、閉塞物質に含まれると考えられるタンニンなどの芳香核構造が著量存在する事を示唆している。また、閉塞物質の無機成分については、細胞壁に含有する無機成分の組成と大きな違いがない事が確認された。この事から、上記に記したような、閉塞物質が土壌中の金属成分との相互作用の結果として木部細胞の内腔に沈着したという仮説は否定された。
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