2011 Fiscal Year Annual Research Report
分化中木部におけるリグニン前駆物質の輸送メカニズムの解明
Project/Area Number |
11J02570
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
津山 濯 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | リグニン / トランスポーター / モノリグノール / コニフェリン / 共発現解析 / シロイヌナズナ / T-DNA挿入変異体 / β-グルコシダーゼ |
Research Abstract |
リグニン前駆物質の生合成から細胞壁へ輸送され重合に至るまでの過程は、樹木の主要な生理活動の一つであるが、前駆物質の輸送に関してはほとんど知見が得られていない。 分化中木部におけるリグニン前駆物質を輸送するタンパク質を特定するため、シロイヌナズナ共発現解析により、リグニン輸送体候補を47に絞り込んだ。候補遺伝子付近にT-DNAが挿入されたシロイヌナズナ変異体を購入、栽培し、成熟花茎のリグニンの分布を観察した。 ホモ挿入が確認された24ラインのうち1ラインにおいて、シリンギル(S)リグニンを特異的に染色するモイレ反応の呈色が、維管束間繊維において野生型より弱い様子が観察された。化学分析の結果、成熟花茎のクラソンリグニン量に野生型と差はないものの、S/V比が野生型の約70%に低下していた。これらからこの変異体ではSリグニン量の減少(Low Syringyl Lignin)が考えられ、この候補輸送体をLSL1と名付けた。LSL1にGFPを融合させBY-2細胞に過剰発現させたところ、細胞膜近傍にGFP蛍光が見られた。LSL1はSリグニン前駆物質の細胞膜を横切る輸送に関与する可能性がある。 これまでコニフェリンの液胞膜画分への輸送活性が、様々な樹種の分化中木部ミクロソーム膜画分で確認できている。しかし重合にはコニフェリルアルコール(CA)が用いられると考えられており、コニフェリンをCAに分解するβ-グルコシダーゼの局在を明らかにすることは、リグニン前駆物質の輸送経路を考察する手掛かりになる。 そこでコニフェリン分解能が確認されているシロイヌナズナβ-グルコシダーゼ(BGLU45)のペプチド抗体を作製した。さらにポプラにおける50近くのβ-グルコシダーゼ様(BGLCL)タンパク質の中で、BGLU45と同じクレードに属するBGLCLに対するペプチド抗体を作製した。現在基質特異性を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究はリグニン前駆物質輸送メカニズムの解明を最終的な目的としている。 リグニン前駆物質輸送体を特定するため、共発現解析から絞り込んだ遺伝子を候補とし、T-DNA挿入変異体を観察したところ、実際にリグニン分布に異常のある変異体を見出すことに成功した。当初の計画以上に、候補輸送体の過剰発現体作製まで進行している。 また既に液胞への輸送が知られているコニフェリンの挙動を明らかにするため、当初の計画通り、β-グルコシダーゼに対するペプチド抗体を作製した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後LSL1過剰発現体を用いてリグニン前駆物質の輸送能を確認する。またLSL1が原因遺伝子としてSリグニン減少につながっているのかを、LSL1を補完するなどして確認する必要がある。さらにLSL1が維管束間繊維に特異的に発現しているか、発現組織を確認したい。 抗β-グルコシダーゼペプチド抗体の特異性を明らかにし、確認され次第、その局在を組織の木化度とともに詳細に観察する。またその際に細胞内膜構造も観察し、液胞から直接細胞壁へ輸送される可能性も考察したい。
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