2011 Fiscal Year Annual Research Report
新規遺伝子発現制御機構を介した植物ウイルスの生存戦略の解明
Project/Area Number |
11J02599
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
楢林 大樹 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 植物RNAウイルス / 5'非翻訳領域(UTR) / マイナス鎖合成 / 翻訳制御 |
Research Abstract |
Melandrium yellow fleck virus(MYFV)のRNA3の5'非翻訳領域(UTR)が担う、RNA3の複製やサブゲノムRNA4の翻訳における制御機構を本解析することで、ウイルスの生存戦略の一端を明らかにすることを目的として、以下の二つの機能について研究をおこなっている。 A)MYFV-RNA3の5'UTRのDS1領域が担う、RNA3の複製における機能の解明 これまでにMYFVのRNA3の5'UTRに存在するDS1領域がRNA3の蓄積に影響することを明らかにした。脱液胞化タバコBY2プロトプラストin vitro翻訳複製系(BYL in vitro系、Komoda et al,.PNAS.,2004)を用いた実験の結果、マイナス鎖合成に影響していることが明らかとなった。このDS1領域について、他のブロモウイルスにおいても調査した結果、DS1領域の機能はプロモウイルス間で保存されている可能性が示唆された。5'UTRにある領域が3'UTRから開始されるマイナス鎖合成に影響していることから、5'UTRと3'UTRがRNA-RNAあるいはRNA-Protein-RNAによる相互作用によりマイナス鎖合成を制御するというモデルが考えられた。このような報告は数種類のRNAウイルスにおいてされるのみである。今後より詳細に解析することで、プラスセンスRNAウイルスのマイナス鎖合成における5'UTRの機能の解明に寄与するものと考えている。 B)MYFV-RNA3の5'UTRのDS2領域によるサブゲノムRNA4の翻訳制御機構の解明 ショ糖密度勾配遠心法によりウイルス因子の細胞内局在を調査した結果、DS2の変異によるウイルスRNAやウイルスタンパク質等、ウイルス因子の局在の変化は見受けられなかった。次にDS2領域がトランスに供給されたRNA4(35Sプロモーターによる産物等)の翻訳をも制御するかNicotiana benthamianaにおいて検証したが、トランスに供給されたRNA4の翻訳に対する影響はなかった。このことから、DS2領域による翻訳制御には、鋳型となるRNA3からRNA4が合成されること、あるいはその後におこるRNA3とRNA4の相互作用が関与していることが示唆された。異なる植物種であるArabidopsis thalianaやN.tabacumにおいては、DS2領域の変異があってもRNA4の翻訳量は低下しなかったことから、この現象はN.benthamiana特異的である可能性が示唆された。DS2領域に変異を持つRNA3を鋳型として合成されたRNA4そのものの翻訳活性について解析した。N.benthamianaプロトプラスト内で新たに合成されたRNA4を抽出し、再びN.benthamianaに接種した。その結果、DS2領域に変異をもつRNA3から合成されたRNA4の翻訳活性が低下する傾向がみられたことから、翻訳に不適なRNA4が合成されている可能性が示唆された。5'UTRの変異によってサブゲノムRNAの質が変わること、およびそれがタンパク質の翻訳に影響することが考えられるが、この様な報告がされたことはなくウイルスの生存戦略を考える上で大変興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RNA3の複製制御に関する研究は、論文を投稿するという目標には至ってはいない。これは当初はDS1領域がプラス鎖合成に機能していると予測していたものの、今回の研究の結果マイナス鎖合成に対して機能していることが判明し、研究計画を変更する必要があったためである。この機能の解析は現在順調に進行しており、間もなく論文としてまとめる予定である。一方、サブゲノムRNA4の翻訳制御に関する研究については順調に解析を進めており、ゲノムRNAの5'UTRがそこから転写されるサブゲノムRNAに何らかの化学修飾を行うことによって翻訳を制御している事を示唆するデータを得た。以上のことから、当初の予定に対しておおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
DS1領域における研究については、この領域がマイナス鎖合成のどの段階で機能しているのか解析し、論文としてまとめる。DS2領域における研究については、RNA修飾の変化の有無や、それが翻訳に及ぼす影響について解析する予定である。ただ、in vitro翻訳系があるArabidopsis thalianaやN.tabacumではこの現象が起こらなかったため、ウイルス因子や宿主因子の詳細な解析については計画の変更を余儀なくされている。現在アグロバクテリウムを用いた再現系をN.benthamianaにおいて構築しており、今後解析を進める予定である。
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Research Products
(3 results)