2011 Fiscal Year Annual Research Report
アウグスティヌスにおける学としての「音楽」―西洋中世の音楽美学研究
Project/Area Number |
11J02686
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
北川 恵 上智大学, 大学院・哲学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 音楽美学 / 教父学 / 自由学芸 / 美の哲学 |
Research Abstract |
アウグスティヌスの「音楽musica」概念を考える上で重要なのは、理性ratioを鍛錬する学としての側面と、善き生を生きるための教程としての倫理的側面とがいかに一体化を目指して密接に関係し合うかという問題である。本年度の研究は以下の二点を主題とした。1)当時の一般教養であった自由学芸をアウグスティヌスはどのように理解し、「音楽」を諸学芸のうちに位置づけようとしたか。2)「音楽」を含む自由学芸論が積極的に展開される初期著作に多大な影響を与えたことが予想される新プラトン主義思想をアウグスティヌスがいかに受容し変容させたか。具体的に1)に関しては、自由学芸を概説する『秩序論』での「音楽」の位置と、諸学芸を詳説した著作の一つである『音楽論』との相違点に注目した。『音楽論』において、「音楽」は『秩序論』で言われるように感覚から精神へと移行するための中継地点ではなく、感覚を通して得た知を善く生きることに常につなげていく知行一致への仲介的役割、その意味で中間的位置にあることが明らかになった。(「学としての「音楽」概念の射程-アウグスティヌス『秩序論』と『音楽論』の比較から明らかになる「音楽」概念」『中世思想研究』第53号,pp.43-58,2011)。2)に関しては、魂を純化するための諸存在の階梯という新プラトン主義的な考え方の受容に注目した。魂は諸存在に現れる秩序の痕跡を辿り、その根拠へと回帰するという新プラトン的側面はアウグスティヌスの『音楽論』にも現れるが、理性と魂の関わり方において違いを見ることもできる。アウグスティヌスは「確かな理性certa ratio」「という概念を持ち出し、単に精神の内にある可知的対象を認識することのみならず、あるべき行いへと向かわせる徳や愛のあり方にも関わる理性を想定している。すなわち、魂の源泉回帰とは精神の働きそのものへの純化ではなく、身体や感情を伴った個としての人間全体の完成なのである(新プラトン主義協会にて学会発表し、『新プラトン主義研究』第12号に投稿)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
『中世思想研究』53号に掲載された論文「学としての「音楽」概念の射程-アウグスティヌス『秩序論』と『音楽論』の比較から明らかになる「音楽」概念」は高く評価され、また第18回新プラトン主義協会の学会発表(2011年9月)にて「アウグスティヌスの自由学芸論-初期思想における新プラトン主義の受容と変容」という新たな課題に取り組むことができた。さらに以上の研究は計画で掲げた段階的目標以上に発展的成果を生みだしたことから、2012年度7月の国際学会(Asia-Pacific Early Christian Studies Society)での発表エントリーへと繋がった。この発表では、美学と倫理学の接合を論じる課題の重要性を反映する更なる発展的研究を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究成果から、新プラトン主義思想の受容を考える上で重要な課題として浮上したのは、「想起」活動における源泉回帰の違いである。「想起」活動に関して、アウグスティヌスは基本的には新プラトン主義の考え方を認めている。しかし新プラトン主義が「想起」を含めてすべての精神の働きを精神の自己認識に還元していく働きとしたのに対し、アウグスティヌスは、「想起」がそこにおいて魂が自己を超越し、かつ個としての人間全体としての完結へと向かう契機を見出すもの(「助け」)であることを強調している。「想起」活動あるいは記憶の働きを重要視するのは中期著作『告白』第十巻の記憶論につながるものであることが予測される。そのため、次年度は『告白』第十巻の記憶論の視点から、『音楽論』における記憶の重要性を検討することを主題とする予定である。この研究成果はAsia-Pacific Early Christian Studies Society 7th Annual Conference,2012にて学会発表することが既に決定している(HP:http://www.cecs.acu.edu.au/apecss-conf2012.htmlにて順次掲載予定)。
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Research Products
(2 results)