2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J02742
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 克彦 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ニーズ / デイヴィッド・ウィギンズ / 個別主義(パティキュラリズム) / 実践的推論 / 法的推論 |
Research Abstract |
本年度は、デイヴィッド・ウィギンズという哲学者が提唱しているニーズという概念を巡る議論を中心に検討し、またその議論に関わる隣接領域(法哲学、倫理学、分析哲学等)の議論のサーヴェイを行った。 当初の研究計画で掲げた「実践的推論と法的個別主義」という研究テーマは、法的推論において個別の事実認識・経験を重視する立場を検討するものなのだが、最初にウィギンズの議論を注目した理由は、ウィギンズは個別の事象に密接に関わる概念として「ニーズ」の概念を捉えており、現在の法哲学の正義論などの領域でより実践的な意義を提唱できるのではないかという推測が働いたためである。 英米圏の議論において、ニーズの具体的な内容に関しては見解が別れており、他の論者と比較してウィギンズが論じるニーズの議論の特徴は、(1)ニーズの内容が主張される時点の個別の事象に相対的であること、(2)正義や平等などの他の概念へ還元できないことを強調する点などが挙げられる。ニーズの問題は正義や平等などの問題に還元できるという考えが法哲学の領域では主流の考えであり、ニーズはそれらと区別され、場合によっては対立する可能性もあるという見解は、従来にはない斬新な視点を提供したと考えている。 これらの議論と自分自身の見解をまとめた研究報告を2011年9月の「東京法哲学研究会・法理学研究会合同研究合宿」で行いい、更にその内容をブラッシュアップした研究報告を2011年11月の「2011年年度日本法哲学会」で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、2011年度中に学会で報告した研究内容を論文として完成させのる予定であり、また完成後に次の課題に取り組む予定であったが、現在もその論文の執筆が続いている。これは、この研究内容が当初の予想以上に他領域にまたがる深い問題であったという点、および2011年1月から3月にかけて自身が体調不良になってしまったという理由によるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは2011年度の学会報告の内容を早急に論文にまとめることを目指しており、現在鋭意執筆中である。また、当初の研究計画ではジョナサン・ダンシーという哲学者の議論も検討する予定だったのだが、本年度に検討したウィギンズの議論とも密接に関連するため、当初の計画よりも深いレベルで研究成果をまとめることを目指そうと考えている。また本年度の研究の結果、ウィギンズの議論から派生する論点がいくつか浮上したため(例えば、「規範理論における概念分析の問題」「ウィギンズののヒューム解釈」など)、それらの議論も次年度以降に検討することも予定している。
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Research Products
(2 results)