2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J02872
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
浅野 倫子 慶應義塾大学, 環境情報学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 読み / 斜め読み / 文処理 / プロト文脈 / 高次視覚処理 / 認知心理学 |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、斜め読みを可能にするような、迅速で効率的な読み(文脈把握)のメカニズムの解明である。これまでの研究では、人は眼球も動かせないほど短時間だけ文を見た場合であっても大まかな文脈を把握できることが示されている。このことから、二字一句単語を順に読んで文を組み立てるのではなく、文中の複数の単語の意味情報を並列的に処理することによって、ごく短時間で原型的な文脈表象(プロト文脈)が活性化されるメカニズムがあると考えられる。本研究ではプロト文脈の性質、特に非言語的な視覚表象との関係の解明を目指している。平成23年度の研究成果は、1.プロト文脈仮説の学術論文としての発表、2.プロト文脈仮説の言語普遍性の検討、の大きく2つに分けることができる。1.これまでの、日本語の読みを対象とした実験結果をもとにプロト文脈仮説の基本部分をまとめ、国際的学術論文誌にて発表した(Asano&Yokosawa,2011,The Journal of General Psychology)。2.プロト文脈仮説は日本語を扱った実験結果に基づいて構築されているが、当該仮説が日本語という世界的に見て特殊な点の多い言語にしか当てはまらない可能性も否定できなかった。そこで平成23年度は英語を対象にプロト文脈仮説の妥当性を調べる実験を行った(イギリスのBangor大学のGuillaume Thierry教授との共同研究)。その結果、英語の読みでも、ごく短時間の文の視覚入力によって文脈が迅速に把握されていることが示唆された。すなわちプロト文脈仮説は英語にも当てはまることが示され、仮説が言語普遍的なものである可能性が支持された。この実験の実施にあたっては、従来の実験方法に改良を加えたうえ、脳波も計測しており、プロト文脈の脳内での処理メカニズムについて示唆に富むデータが得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の中心仮説であり、新規性の高い文処理仮説であるプロト文脈仮説の基本部分を学術論文の形で世の中に発表できた。さらに、これまでの日本語の読みにおける検討に加えて、英語を対象に、しかもより洗練された実験方法で、脳波計測といった生理指標も加えた検討を行うことができ、当該仮説の妥当性、普遍性を大きく高めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、平成23年度に日本語を対象としてプロト文脈仮説についての検討を行い、平成24年度に英語など他言語における検討を行う予定であった。しかし英語圏での研究環境が予想以上に早く整い、先に平成23年度に英語における検討を行ったため、平成24年度はその成果を踏まえ、脳波計測なども取り入れた形で日本語における検討を進める予定である。プロト文脈と非言語的視覚概念処理め関係について検討を重ね、研究の進捗状況によっては中国語などさらに異なる性質を持った言語での検討も加え、言語普遍的な仮説の確立を目指す。研究成果は学会発表や学術論文の形で積極的に世の中に発表していく予定である。
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