Research Abstract |
今年度は,主に重さ1のモジュラー形式に関する具体的計算を行った.ひとつは,楕円曲線の3等分点に付随して生じる,octahedral型と呼ばれる重さ1のニューフォームのフーリエ係数を,簡単に計算する公式を得たことである.この公式は,楕円曲線に付随する重さ2のニューフォームのフーリエ係数と,あるテータ級数の一次結合として書かれる重さ1のニューフォームのフーリエ係数を使って,octahedral型のニューフォームのフーリエ係数を表示するというものである.octahedral型のニューフォームの計算例は非常に少ないため,本研究のように,フーリエ係数の一般的な公式が得られたことは,意義のあることと考えている. もうひとつの成果は,Dedekindのエータ関数を用いて構成される,重さ1のカスプ形式のある族に対して,それが生成するヘッケ加群の構造を,数式処理ソフトPARI/GPを用いて数値実験により計算したことである.この計算には,Lario-Schoof-Steinによる,ヘッケ代数の具体的な生成元を与える定理が重要であった.彼らの定理を使い,いくつかのヘッケ加群の次元を求めたところ,ある虚2次体の類数に一致するという結果が得られた.また,このヘッケ加群へのヘッケ作用についても調べ,素数2のヘッケ作用素が,ヘッケ加群の自己準同型として有限位数をもち,その位数が,2の上にあるイデアルの属す類のイデアル類群における位数と深い関係があると推察される計算結果も得た.さらに,このヘッケ加群の中のヘッケ固有形式を見つけ,いくつかの固有形式に対しては,それに対応するガロア拡大を求めた.その際には,Stark予想の思想に基づき,モジュラー形式のL関数の特殊値を近似的に計算し,ガロア拡大を生成する単数を計算した.結果として得られたガロア拡大の中には,実2次体の類体と関係するものがあった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Dedekindのエータ関数を用いて構成される,ある重さ1のモジュラー形式の系列を用いて,多くのヘッケ固有形式を見つけることができた.また,いくつかのヘッケ固有形式に対しては,Stark予想に基づく計算によって,対応するガロア拡大を決定することができた.これらのことは,本研究で最も重要視していることである.現段階では数値計算による結果のみであるが,研究目的を達成するために有用な計算結果を得ることができたので,研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に計算したヘッケ加群の構造を調べることが重要だと考えている.ヘッケ加群の次元が,虚2次体の類数に一致するという現象は,全く予想していなかった.従って,今後は,ヘッケ代数のこのヘッケ加群への制限と,虚2次体のイデアル類群との関係の理論的背景を調べる予定である.この2つの対象の関連性を明らかにすることは,本研究の目的の達成に直結すると考えている.方策としては,ヘッケ加群を生成するカスプ形式に対するヘッケ作用を調べること,ヘッケ固有形式に対応するガロア拡大を決定すること,などが考えられる.今年度に研究したヘッケ加群の系列は,ある虚2次体の分岐を制限した類体と対応しているのではないかと考えており,この点を調べることで,ヘッケ加群と虚2次体のイデアル類群との関係を明らかにしたい.
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