2011 Fiscal Year Annual Research Report
非クラマース配置を持つ電子系の新しい秩序状態と近藤効果の理論
Project/Area Number |
11J03333
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
星野 晋太郎 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 近藤効果 / 重い電子 / 希土類化合物 / 秩序形成 / 量子モンテカルロ法 / 動的平均場理論 |
Research Abstract |
局在性の強いf電子と結晶中を遍歴する伝導電子が織りなす強相関電子系は多彩な現象を引き起こす。サイトあたりf電子を奇数個持つCe^<3+>やYb^<3+>から成る化合物では、時間反転対称性に基づくクラマース縮退が必ず残る。一方、Pr^<3+>やU^<4+>の持つ偶数f電子配置ではそのような制限は無い。この非クラマース系では、クラマース系とは定性的に異なる新しい物理が期待される。本研究で注目するのはPrFe_4P_<12>という物質である。Pr化合物としては珍しく電気抵抗に近藤効果的な対数温度依存性を示し、6。5Kで非磁性の奇妙な秩序状態へ2次相転移する。これまで理論・実験両方の観点から多くの研究がなされてきたが、この秩序状態の秩序変数やその起源は未だ謎である。これを微視的モデルから理論的に明らかにする必要がある。 PrFe_4P_<12>における偶数f電子配置の低エネルギー結晶場状態は一重項と三重項であると想定される。本研究ではPrFe_4P_<12>の秩序化を微視的モデルから理解することを目的とし、結晶場一重項・三重項と2つの伝導バンドが相互作用するモデルの解析を行った。理論手法としては、局所相関をフルに考慮する動的平均場理論を連続時間量子モンテカルロ法と組み合わせて用いた。その結果、近藤一重項と結晶場一重項が交互に並ぶという新しいタイプの秩序を見出した。これは遍歴f電子と局在f電子の交替的な秩序と解釈される。通常、局在的なf電子が秩序化を引き起こすと考えられているため、本秩序はf電子の遍歴性が重要な新しいタイプの秩序といえる。さらに、導入したモデルにおいて様々な物理量を計算し、PrFe_4P_<12>における電気抵抗や磁気散乱スペクトルの温度依存性などの特徴的物性を自然に説明できることを示した。さらに、本研究では結晶場二重項基底状態を持つ非クラマース系も解析を行い、ここでもf電子の遍歴性が重要である新奇な秩序が形成されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画では、(i)PrFe_4P_<12>と本研究で導入したモデルの対応と、(ii)モデルにおける超伝導実現可能性を調べることを挙げた。計画(i)は完了しており、実際に実験で測定されている物理量を計算し、PrFe_4P_<12>の特徴的物性を説明できることを示した。一方(ii)については、現在使っている理論手法で超伝導感受率を計算する枠組みは完成している。現在これを用いて超伝導相の探索を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、PrFe_4P_<12>の振る舞いを定性的に理解することに成功した。一方で、PrFe_4P_<12>は外部パラメータを変化させると実に多彩な状態が実現することが分かっている。具体的には、(a)磁場を[100]方向にかけると非磁性の重い電子状態、(b)磁場を[111]方向にかけると新しい秩序相、(c)PrをLaで置換していくと強磁性秩序、(d)高圧下で反強磁性秩序である。今後、本研究で導入したモデルにこれらの効果を含めて考え、実験結果との対応を議論する。これによって、非クラマース電子系における振る舞いの理解を一層深める。また、本研究はさらなる広がりを見せており、タイプの異なる非クラマース系においても新奇な秩序が形成されることがわかってきた。そこで、このモデルに対しても理論解析を行い、強相関電子系における新しい秩序化の概念を創出する。
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