2011 Fiscal Year Annual Research Report
腫瘍幹細胞の概念を導入した動物のリンパ系腫瘍における抗癌剤耐性に関する研究
Project/Area Number |
11J03651
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
富安 博隆 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 犬 / 腫瘍 / 腫瘍幹細胞 / エピジェネティクス |
Research Abstract |
本研究は抗癌剤耐性機構を犬のリンパ球系腫瘍に焦点を絞って「腫瘍幹細胞説」と「エピジェネティック制御」という新しい観点から解明することを目的としている。その中で今年度は、腫瘍細胞株において、腫瘍幹細胞と類似する性質を持つと考えられているSide Population(SP)を分離し、その他の細胞集団(Major Population、MP)と比較することと、その解析の中で重要と考えられる遺伝子に関して、エピジェネティックな発現制御を明らかにすることの二点を軸に、犬のリンパ球系腫瘍細胞株のうち、抗癌剤感受性株(GL-1、CLBL-1)と耐性株(UL-1、Ema)の計4細胞株を用いて研究を遂行した。 まず、SPの検出を行ったところ耐性株であるUL-1、Emaにおいてのみ認められた。さらにSPはMPに比べ、薬剤排出ポンプをコードする遺伝子などのmRNAの発現が高かった。また、細胞周期を比較するとMP分画に比べSPはそのほとんどがG0/G1期に存在していた。これらの結果からクローナルな細胞株中にも抗癌剤耐性を持つ集団が存在する可能性が示唆された。 また、SPとMPの間で発現量に違いがあった遺伝子のうち、P-glycoproteinに着目しその発現制御へのエピジェネティクスの関与を明らかにした。まず、P-glycoproteinをコードするABCB1遺伝子のmRNAおよびP-glycoproteinの発現量が、GL-1,CLBL-1に比べ、UL-1、Emaでは著増していることが明らかとなった。 次に、犬のABCB1のpromoter領域内にCpGアイランドが存在することが判明し、この領域のCpGサイトはGL-1、CLBL-1では高メチル化状態であったのに対しUL-1、Emaでは低メチル化状態であることが明らかとなった。さらにGL-1、CLBL-1に比べ、UL-1、EmaではヒストンH3が高アセチル化状態であることも明らかとなった。そして、DNAメチル化阻害剤あるいはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤による処理で、GL-1、CLBL-1ではABCB1のmRNA発現量が著増することが明らかとなった。このことから、SP分画とMP分画の間で発現に違いが見られたABCB1の発現制御にエピジェネティクスが関与している可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の成果として、腫瘍幹細胞が集中する分画とされているSide Population(SP)分画の同定と性質の解析、およびその中でSPの性質に深く関わっていると考えられたABCB1遺伝子の発現制御へのエピジェネティクスの関与を明らかとしたことが挙げられるが、特にABCB1遺伝子がDNAメチル化とヒストンアセチル化によって制御されていることを明らかとした研究はこれまでに獣医学領域では行われておらず、抗癌剤耐性の研究の進歩に非常に寄与する研究成果を挙げることができたと考えられるため。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後、Side Population分画とMajor Population分画との間での網羅的遺伝子発現解析をMicroarrayを用いて行う予定であり、さらにSPとMPの形質の違いを明らかにできるものと考えられる。 さらに、ABCB1遺伝子に関しても、エピジェネティクスとジェネティクスの相互作用という観点から、遺伝子発現制御機構をさらに明らかにしていく予定である。 これら研究によってもたらされると予測される成果は獣医学領域および人医学領域において非常に大きな問題となっている、腫瘍の抗癌剤耐性獲得機構の解明に大いなる貢献をもたらすと考えられる。
|