2012 Fiscal Year Annual Research Report
腫瘍幹細胞の概念を導入した動物のリンパ系腫瘍における抗癌剤耐性に関する研究
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11J03651
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
富安 博隆 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 犬 / 腫瘍 / 腫瘍幹細胞 / エピジェネティクス |
Research Abstract |
本研究は抗癌剤耐性機構を犬のリンパ系腫瘍に焦点を絞って「腫瘍幹細胞説」と「エピジェネティック制御」という新しい観点から解明することを目的としている。 その中で平成24年度はまず、腫瘍細胞集団中における、腫瘍幹細胞と類似する性質を持つと思われるSide Population (SP)分画とその他の細胞集団(Major Population ; MP)との間でMicroarrayおよびリアルタイムRT-PCRを用いて網羅的に遺伝子の発現量を比較しSP分画の表現型に重要である因子の探索を行った。その結果、TGF-βtype II receptorの遺伝子発現量がSP分画において有意に高いことが明らかとなり、さらにTGF-βシグナリングの下流であるERK/MAPK経路がSP分画の表現型に重要と考えられたABCB1遺伝子とLRP遺伝子の発現を制御し、さらにERK/MAPK経路の活性化がSPの表現型自体も制御していることが示された。 次に、細胞株を用いて明らかとなったDNAメチル化状態とABCB1遺伝子の発現量との関連を、犬のリンパ腫症例由来の腫瘍細胞を用いて解析を行った。具体的には、化学療法感受性あるいは耐性の多中心型高悪性度リンパ腫に罹患した犬の体表リンパ節から採取した腫瘍細胞を用いてABCB1遺伝子のCpGアイランドメチル化状態を解析した。さらに採取した腫瘍細胞を用いて、リアルタイムRT-PCR法を用いてABCB1遺伝子の発現量を相対定量し、DNAメチル化率との相関を検討した。その結果、化学療法感受性群と耐性群の両方においてほとんどの症例のDNAメチル化率が低いことが明らかとなった。また、ABCB1遺伝子発現量を相対定量した結果、DNAメチル化によるABCB1遺伝子発現抑制を受けていた細胞株に比べ、症例由来腫瘍細胞株では発現量が高いことが明らかとなり、さらにDNAメチル化率とABCB1遺伝子発現量との相関を検討したところ、これらの値に有意な相関は認められないことが示された。この結果から、犬の多中心型高悪性度リンパ腫症例においては化学療法感受性症例、耐性症例ともにABCB1遺伝子がDNAメチル化による発現制御を受けていないことが考察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の成果として特筆すべきは、腫瘍幹細胞が集中する分画とされているSide Population(SP)分画の同定と性質の解析をさらに進めたことで、TGF-βシグナリングの下流であるERK/MAPK経路がSP分画の表現型に重要と考えられたABCB1遺伝子とLRP遺伝子の発現を制御し、さらにERK/MAPK経路の活性化がSPの表現型自体も制御していることを明らかにした点である。この研究成果は獣医学のみならず医学領域にも貢献すると考えられ、学術論文としてLeukemia and Lymphoma誌への掲載が決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はERK/MAPK経路を含む様々な細胞内シグナルをコントロールすることでABCB1遺伝子やLRP遺伝子の発現量を下げ、抗癌剤耐性の腫瘍細胞を再び抗癌剤感受性とすることを目的とした研究を遂行していく予定である。 これら研究によって化学療法を行いながらこれらの遺伝子の発現をもコントロールする治療法の開発の基礎となる成果がもたらされると予測され、獣医学領域および人医学領域において大きな問題となっている、腫瘍の抗癌剤耐性獲得の克服に大いなる貢献をもたらすと考えられる。
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[Journal Article] Regulation of expression of ABCB1 and LRP genes by mitogen-activated protein kinase/extracellular signal-regulated kinase pathway and its role in generation of side population cells in canine lymphoma cell lines.2013
Author(s)
Tomiyasu, H., Watanabe, M., Goto-Koshino, Y., Fujino, Y., Ohno, K., Sugano, S. and Tsujimoto, H.
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Journal Title
Leukemia and Lymphoma
Volume: (印刷中)
DOI
Peer Reviewed
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