2011 Fiscal Year Annual Research Report
ゴシック建築の精神性―擬ディオニュシオスを中心とした「光の形而上学」からの影響
Project/Area Number |
11J03786
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
坂田 奈々絵 上智大学, 神学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 中世思想 / 神学 / 芸術論 / 西洋中世 / 秘跡論 / 教父 |
Research Abstract |
本研究の目的は、サン・ドニ修道院長シュジェ(12世紀・フランス)の思想体系を明確化し、その思想に対する擬ディオニュシオス(6世紀?・シリア)の影響の有無を探り、またシュジェがどのような形でゴシック建築を捉えていたのかを明らかにし、そこにおいて12世紀の「美しいモノ(≒芸術)」に対する思想を明確化することである。 これを踏まえて、本年度はまず、擬ディオニュシオス文書の一つである『教会位階論』の読解・考察を進めた。そこに描かれている擬ディオニュシオス文書の著者の儀式観を見ていくことで、形而上学的な「美」と形而下的な「モノ」の世界の交錯点をより明らかにし、その思想像をより総合的に考察できた。こうした理解は、シュジェについての先行研究ではあまり踏まえられることのなかった点であるが、シュジェに対する擬ディオニュシオスの影響、ひいては教父からの影響について考察する上では重要な前提であると考えている。 また同時に、サン=ドニ修道院長シュジェに関しては、原典資料の試訳を進め、彼と同時代の修道院長たちの思想との比較も行った。前者に関しては、とりわけ『統治記』の主要箇所と書簡の翻訳を進め、また彼の記念日に読まれたとされるLegendaの翻訳も目下進めている。後者に関しては、とりわけクレルヴォーのベルナールとの書簡のやりとりや、ベルナール自身の思想を見ていくことで、彼らがどのように「美しいモノ」を見ていたのかを明らかにした。またその過程で、ベルナール以外の同時代の修道院長たちの教父の引用法や「美しいモノ」に対する考えを考察することができ、そこにおいてシュジェの思想の独自性や外郭が一層明確化することができた。 くわえて、8月末から9月にわたって渡仏し、Institut Catholique de Parisの研究者と交流を行い、フランスにおける中世研究の現状などについて意見の交換を行った。また研究対象としているサン=ドニ修道院聖堂、またシュジェの大聖堂とほぼ近い時期に造られているトゥールーズのサン=セルナン大聖堂やアルルのサン=トロフィームなどで資料の収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の23年度に記載した1.「擬ディオニュシオス文書の原典研究」2.「擬ディオニュシオスの思想的周辺世界の影響」3.「実際の建築に基づいたシュジェの考察」4.「シュジェの歴史的文脈の研究」という四点のうち、1,2の点についてはすでにある程度行うことができた。また3についても、8-9月のフィールドワークにて、ある程度の資料収集と考察を行うことができたと思っている。4については、思想史的部分からのアプローチをはじめているので、それをもって「おおむね順調」とする。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度からは、とりわけ12世紀の思想的世界を中心に考察を進めていきたい。特に来年度は、シュジェの同時代の修道院長たちの文書の考察をより進め、サン=ヴィクトル学派などの哲学的潮流における「モノ」観にも目を向ける。またシュジェ自身の文書における考察、特に『献堂記』の記述を中心にして、彼が特徴的に用いるratioがどのような意味をもつものなのか、という点を明らかにしたい。擬ディオニュシオスのシュジェへの影響如何については、なるべくシュジェの文書と、サン=ドニの典礼資料などから考察していきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)