2011 Fiscal Year Annual Research Report
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11J04766
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
豊田 唯 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ムリーリョ / バルデス・レアル / セビーリャ |
Research Abstract |
本年度は平成23~24年度の2年間における課題研究の前半期に位置づけられ、その当初の目的は、セビーリャ(スペイン)のサンタ・カリダード聖堂の美術装飾中、最も著名な絵画であるバルデス・レアル作《束の間の命》、《この世の栄光の終わり》(いずれも1672年)について、それらの表現内容におけるイエズス会からの思想的な影響を論証することにあった。しかし、その準備を進めるなかで報告者は、同時代の「エンブレム・ブック(エンブレム集成)」をめぐる長期の調査が必要であることを新たに認識したため、それに並行し、来年度の課題として予定していたムリーリョ作《ハンガリーの聖エリザベート》の考察を進めた。その成果は、地中海学会の会誌『地中海学研究』(第35号、2012年5月刊行予定)への投稿論文「ムリーリョ作《ハンガリーの聖エリザベート》(1672年)とカリダード施療院の創設理念」としてまとめられ、査読の結果、採択を受けた(2012年1月)。同論文では、バルデス・レアル作品同様にカリダード聖堂の美術装飾の一環である同聖人画の悲痛な表現内容について、同作のイメージ・ソースとなった版画やムリーリョの他作品との比較を通して把握し、その思想的な背景をカリダード兄弟会(信心会)が同時期に創設した施療院の理念に求めている。 また、カリダード聖堂、あるいはムリーリョやバルデス・レアルのみに視野を狭めることなく、スペイン美術史全体に対する広範な見識を身につけるために、「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」展(国立西洋美術館、2011年10月~2012年1月)の図録の制作などにも携わった。なかでも同展の「スライド・トーク」(全4回)を担当し、近代スペインの画家ゴヤの画業について100人超の来場者を前に講演したことは、特定の学術研究の成果と課題を社会に対して明快に伝えるための貴重な訓練となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のようにバルデス・レアルの2点の絵画については、いまだ「エンブレム・ブック」をめぐる基礎的な調査の段階を抜け出せていないが、ムリーリョの2点の聖人画については《ハンガリーの聖エリザベート》を中心に、その制作の思想的な背景を特定できたように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度の最大の目的は、バルデス・レアルのヴァニタス画《束の間の命》、《この世の栄光め終わり》について、同時代のエンブレムとの形式的な類似を指摘し、それを手がかりに当時、「エンブレム・ブック」を教化の手段として重視していたイエズス会からの思想的な影響を追究することにある。その成果は、同年度中に学会発表や雑誌論文としてまとめられる予定である。
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