2011 Fiscal Year Annual Research Report
中国の日本語学習ニーズの多様化に対応する「学習者主体の教材開発」に関する実践研究
Project/Area Number |
11J04780
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田中 祐輔 早稲田大学, 日本語教育研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 日本語教育 / 日本語教科書 / 国語教育 / 国語教科書 / 中国の大学専攻日本語教育 / 精読 / 教材開発 / 教育言説 |
Research Abstract |
本研究は、中国の日本語教育において現代的課題とされる学習ニーズに対応する教材開発をテーマに、(I)背景となる教育言説と日本語教材の現代史全体を通じた問題点の把握(中国日本語教育現代史研究)、(II)現代中国日本語教育における日本語教科書の特徴と課題の解明(中国日本語教科書現代史研究)、(III)現行教育の課題を踏まえた学習者主体の教材開発と実践のあり方の提案(理論に基づく実践的研究)を中心的な研究課題に据え、調査・考察を行うものである。 (I)について、2011世界日本語教育研究大会において日本語教育学における「ニーズ」論の現代史について、学術誌『日本語教育』(1~147号)の言説分析から明らかにし、日本語教育が抱える教育言説の特徴と問題を指摘した。 (II)その上で、課題があるとされる現行日本語教科書の特徴について、田中(2011、2012)において考察し、中国の大学専攻日本語教科書と日本の高等学校国語教科書との内容的近似性から浮かび上がる現代的課題を明らかにした。具体的には、日本語教科書37冊と国語教科書との作品・作家の重なり度合いについて調査を実施し、現行教科書の掲載作品・作家は国語教科書と重複することがあり、特に高年級段階では取り扱われる作品の大部分が国語教科書掲載作品であることを指摘し、その要因は「正しい日本語・日本文化・日本人の心」の習得と理解という目標が、教学大綱・教師・学習者・教科書作成者・研究者間に共有され、教科書制作に際しては、国語教科書を参照するのが適切且つ効率的だと考えられていることにあると指摘した。 (III)について、学習ニーズの多様化に対応する日本語精読教材の開発のあり方の一つとして、教材開発プロセスに密着して行なわれた学習ニーズの量的・質的調査とその意義について発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、特に、(1)日本語教育の教育言説的特徴の把握(2)教育言説の中で問題とされる現行教科書の特徴と構造的課題の解明(3)前記2点の理論研究を踏まえた学習者主体の教材開発と実践のあり方の提案、の三点に取り組んだ。これらから得られた研究成果は、日本語学会と日本語教育学会の、国内・国際大会において口頭発表がなされ、さらに、査読つき学術誌に2本の論文として公開された。これらは次年度の研究において重要な基盤となることが予想され、本研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
現代中国大学専攻日本語教育には日本の国語教育との内容的・手法的近似性が存在し、その背景には、「正しい日本語・日本文化・日本人の心」の習得と理解という目標のために国語教育の手法と内容が採用されてきた事実がある(田中,2011;田中,2012)。中国の日本語教育・教材の現代的課題について考えるには、中国の日本語教育の歩みを把握し、何を目指し、どこへ向かうのかを明らかにしなければならないと言える。そのため、今後、1950年代以降の日本語教科書と日本の国語教科書との異同の詳細と、このような教育的特徴が確立された背景とルーツついて調査を行い、中国の日本語教育が何を目指し、どこへ向かうのかを明らかにしたいと考える。
|