2011 Fiscal Year Annual Research Report
ルソーの自然科学受容とその政治哲学への応用について
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11J04894
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
淵田 仁 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 啓蒙思想 / 科学史 / 化学史 / 分析的方法 |
Research Abstract |
平成23年度の中心課題は、ジャン=ジャック・ルソーの『化学教程』のテクスト読解および18世紀フランス啓蒙思想期における科学史の研究であった。 まず、『化学教程』のテクストの読解であるが、その成果としては月曜社WEBサイトにて翻訳連載を開始した。そのために、秋にはジュネーヴ大学図書館へ行き、ルソー自身の草稿のチェックもおこなった。また、パリの国立図書館などで資料収集もおこなった。 『化学教程』のなかでもっとも重要な概念だと思われる「分析analyse」については、「なぜルソーは「分析」を批判したのか?--ルソーの『化学教程』についての試論--」と題する論文を執筆し、日仏哲学会が発刊する『フランス哲学・思想研究』の第16号に掲載された。ルソーがホッブズの分析的方法を批判する箇所の検討をおこなった。その批判の方法論的源泉として『化学教程』を挙げることができるということを当論文において証明した。すなわち、ホッブズへのルソーの批判は、単なるロマン主義的な彼の性格に由来するものではない。 ルソーの化学論の当時の位置づけについては、『百科全書』やドルバック『自然の体系』などの同時期のテクストとの比較検討をおこなった。その結果、同時代の哲学者が生命の誕生といった問題意識から化学に関与していったにもかかわらず、ルソーは違う問題意識、すなわち科学的方法論の政治哲学への適応という観点から化学に接近していたということも明らかとなった。この成果に関しては、『『百科全書』・啓蒙研究論集』において「『化学』を巡るフィロゾーフたちの戦い--ルソーを中心にして--」と題する論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の達成度としては、おおむね順調だと考えられる。『化学教程』というテクスト自体の読解や、同時代の科学史、哲学史の検討などをある程度成果としてまとめられた。しかし、ルソーの政治哲学との関係性などについてはまだ疑問点も多く、この問題は平成24年度の研究の課題といえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ルソーの『化学教程』が後年の彼の政治哲学とどこまで関係性があるのかを研究することが当面の課題である。そのためには、『社会契約論』のなかで用いられている概念、記述の方法論的側面等に留意しながらテクストを読解していく必要があると思われる。
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