2011 Fiscal Year Annual Research Report
アントナン・アルトーの作品における「色彩」の役割をめぐって
Project/Area Number |
11J04916
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
稲葉 剛 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | アントナン・アルトー / テクストにおける色彩 / テクストにおける絵画 / イメージ論 / 文学と美術 / シュルレアリスム / メキシコ / 身体論 |
Research Abstract |
本年度はアントナン・アルトーの作品における「色彩」の在り方について調査した。 フランスの作家アントナン・アルトーは、たとえば晩年の代表作『ヴァン・ゴッホ社会による自殺者』に顕著であるが、分節言語では言い表せないものを「色彩」にまつわる表現を用いることで記述しようと試みた。アルトーが自身の作品において重視したこととは、言語によって何かを説明よりも、「色彩」によってイメージを喚起させることであったと言ってよいだろう。 しかし晩年にいたると明白になる以上のような傾向は、初期の作品においては試行錯誤の段階にあり、必ずしも明瞭ではなかった。そこで本年度においては、フランス国立図書館とメキシコ国立図書館へ調査旅行をおこない、その地で集めた資料を用いて、この作家の初期の仕事に関する研究を深化させることに努めた。その際に留意したのは、おもに以下のこ点である。1)フランス国立図書館においては、アルトーと実際に親交のあった同時代の作家たちの資料をあわせて閲覧することで、アルトーの仕事を多角度から読み直した。2)メキシコ国立図書館においては、メキシコの日刊紙を閲覧し、そこに掲載されていたアルトーのテクストと、彼が当時その地で行った講演についての記事を集め分析した。というのも、この時期のアルトーのフランス語原稿はその大半が失われているため、収集したスペイン語訳が一次文献であると言ってよいし、この作家が行った講演の評判などは依然として日本にもフランスにも紹介されていないからである. 以上のような作業から明らかになったのは、アルトーをシュルレアリスムとの関係において考察することの重要性であった。たとえばアルトーがフィリップ・スーポーと合わせ論じられることは今まで稀であったが、前者が「色彩」の重要性を理解するにあたっては、後者とともにシュルレアリスムから除名されたことが大きな契機となっていたからだ。また以上のことは、メキシコの日刊紙に掲載されていたアルトーの講演についての記事においても言及されていたのだった、
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、はじめは科学研究費補助金が七割支給であり、全額支給されるかも不明であったため、科研費の大部分を海外調査費用に充てることになっていた私は、必ずしも当初の計画通りには調査旅行が行えなかった。しかし渡航の時期こそずれてしまったものの、当初の目的地であったメキシコおよびパリに赴くことができたし、その地で得られた成果を学会にて発表することもできた。以上を考慮するならば、研究は当初の予定通りには進まなかったものの、おおむね順調に進展したと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も継続的にアントナン・アルトーの仕事にみられる「色彩」の在り方を研究していく。それにあたり、今まで以上にこの作家と他の作家との関係を重視したい。なぜならば本年度の研究で明らかになったように、アルトーその人の作品を分析するだけでは得られない貴重な視点が、他の作家をとおして見出されることがありうるからである。具体的にいえば、昨年亡くなったマルチニックの作家エドゥアール・グリッサンとの比較が有用だと考えている。この作家がその生涯を通じてアルトーについての言及をやめなかったことも理由のひとつだが、なによりアルトーの後期の作品にあらわれる舌語とよばれる、意味より音を優先させた結果「色彩」へとつながっていく言語のありかたは、グリッサンをはじめとするクレオール文学の作家たちが用いる変質したフランス語と共通することがあるからである。幸いにも現代クレオール文学を代表する詩人であり、師にあたるグリッサンにならいアルトーを重要視しているモンショワシ氏とは来目時に面識を得ているので、来年度は氏が居を構えるマルチニックに赴き研究の打ち合わせを行うとともに、現地で資料収集することを考えている.
|
Research Products
(2 results)