2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J05225
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐々木 亮 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | Dharmakirti / Vadanyaya / Santaraksita / Vipancitartha / nigrahasthana / 仏教論理学 / インド大乗仏教 / ニヤーヤ学派 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ダルマキールティのVadanyaya(VN)の解読を軸に、このテキストと対立関係にあるニヤーヤ学派の諸文献を精査し、インド大乗仏教とニヤーヤ学派の思想的差違及び両者の影響関係を明らかにしつつ、VNの主要な討論術的概念である「敗北の条件」(nigrahasthana)の内容分析を図ることにある。また、研究推進に当たり、シャーンタラクシタのVNに対する註釈文献であるVipancitartha(VA)を積極的に活用する。 VNはその構成上、asadhanangavacanaとadosodbhavanaという術語を用いて「敗北の条件」に対してダルマキールティ独自の定義が与えられる前半部と、ニヤーヤ学派の「敗北の条件」の定義に対して批判的検討が為される後半部とに分けられるが、この両部分が具体的にはどのような対応関係にあるのかという問題に関する先行研究は乏しく、この問題解明を主要課題とするところに本研究の特色がある。 本年度は、VN前半部におけるasadhanangavacanaの五通りの語義解釈と、adosodbhavanaの二通りの語義解釈の解明を、VAを活用しつつ行った。その結果、ダルマキールティが、三種の証因・証因の三条件・疑似的証因等の自身の論理学的概念と、「敗北の条件」という伝統的な討論術的概念との接合をはかろうとしていたことが明らかとなった。さらに、VN前半部で説かれるasadhanangavacanaの第一・第二・第三解釈と、VN後半部で提起されるニヤーヤ学派の第十一番目の敗北の条件である「不足」に対する批判内容とを対照することにより、VN研究の具体的方法論を示すと共に、VNの独創性と思想史的意義を部分的にではあるが明らかにすることができた。今後は、本年度までに確立した方法論を基軸として、引き続きVNの包括的分析を進める予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主要研究対象として定めていたVNにおける前半部の解読は、VN全体の中でも特に多くの思想的問題を含むために難航すると予期されていたが、当初の計画通りに進展させることができた。また、VN後半部についても前年度に引き続き解読を十分に進められた。さらに、VN解読のための補助的手段としての、VNの註釈文献及びダルマキールティの他の諸著作や、ニヤーヤ学派の諸文献の解読研究も順調に進んだ。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続きVN後半部の解読を行い、VNの全訳を作成することを当面の目標とする。その際、シャーンタラクシタのVNに対する註釈文献であるVipancitarthaを積極的に活用する。さらに、ダルマキールティの他の諸著作や、Nyayasutra及びその註釈諸文献の解読を進めることによって、ダルマキールティとニヤーヤ学派との思想的差違、及び両者の影響関係の解明を目指す。そして最終的に、VN前半部とVN後半部との具体的な対応関係を分析することによって,VNの独創性と思想史的意義を明らかにすることを目的とする.
|