2011 Fiscal Year Annual Research Report
近世末期国学者の知識形成と交流-西日本における文人ネットワークを中心に-
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11J05299
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉良 史明 広島大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中島広足 / 蒙古襲来絵詞 / 平田篤胤 / 霊の真柱 / なやらひ |
Research Abstract |
本年度は、中島広足の文事の当代文苑・思想界における位置を見極めることに主眼を置きく広足周辺の文人の著述、またその動向を把握し得る資料の収集に専念した。結果、以下の二点を主たる研究成果として示しておく。 先ず一点目は、『蒙古襲来絵詞』をめぐるもの。昨年度に引き続き、残存する同絵巻の収集に努め、それらの比較検討作業を通じて、広足もまた文政年間の同絵巻の復元考証に関与していることが明らかとなってきた。同絵巻の復完考証の詳細に関しては、従来美学・国史学の領域において研究が進められ、肥後の国学者長瀬真幸と絵師福田太華の関与が論じられている。しかしながら、私が調べる限り、両人のみならず、より多数の国学者・絵師の参与が種々の関連資料より認められる。そして、その修復作業を通じて得た見地を自らの文事に活かしていることもまた、従来検証されることのなかった大きな特徴である。ゆえに、次年度においては、以上の事柄を複数の論攷に取り纏め、その成果を明らかにしたい。 次に二点目は、広足が平田篤胤の学問を如何に継承しているものか、その内実に関するもの。従来、平田篤胤が『霊の真柱』において示した宇宙観は、国学者は無論のこと、儒学者、蘭学者等を巻き込んで賛否様々な反響の生じたことが論じられている。殊に儒学者が国学者の世界観を蘭学の説に牽強附会したものであると批判していることは、中野三敏「二つの世界の一交点-篤胤と松斎と大方と-」(中川久定編『「一つの世界」の成立とその条件』所収、国際高等研究所、2007年)が示すところである。 かかる儒学者の批判に対して、反駁を試みた広足『なやらひ』なる著述がある。同書をもとに広足の世界観を当代、後代の国学者のそれと比較検証する作業を通じて、その説の思想史上の位置を明らかにしつつあり、次年度において論攷として取り纏めることを目標としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度の研究計画として掲げている(1)文献調査の実施(2)近世後期より明治初期にかけての歌集資料の収集とデータベースの作成(3)『蒙古襲来絵詞』模写と国学者の文事(4)青木永章と中島広足の文事、以上四つの目標に関して、おおむね達成しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度において示した四つの目標の成果を形にすることに次年度の主眼を置きたい。 先ず文献調査の成果に関しては、「鎮西大社諏訪神往所蔵中島広足自筆稿本解題」と題して、その資料の詳細を解題の形式にて発表したい。 また、青木永章と広足の関連に関しても、その詳細を論じるうえでかかすことのできない『後之東路記』を翻刻したい。 さらに、『蒙古襲来絵詞』に関しては、その復元考証過程を再度検証するもの、ならびに歌語「神風」の変容との関連を示したもの、以上の二編を論攷に取り纏め、その成果を公にしたい。
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Research Products
(5 results)