2011 Fiscal Year Annual Research Report
言語コミュニケーションにおけるイメージの役割―アルフレッド・ジャリの場合
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11J05538
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
合田 陽祐 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Keywords | アルフレッド・ジャリ / コンテクスト主義 / イメージ論 / 文学的コミュニケーション / アリュージョン / 文学の政治 / 十九世紀後半の大衆文化 / 人形劇と演技の不要性 |
Research Abstract |
本年度の目的は、アルフレッド・ジャリの作品の根底にある歴史的・政治的・文化的コンテクストを明らかにすることにあった。その方法として、ジャリがテクストで喚起している具体的なイメージに注目し、そこに読み取れる現実へのレフェランスを分析した。本年度の成果は、主に四本の論文と学会発表にまとめ公表した。(1)『碧の蝋燭』についての論文では、この評論集を支える文学・心理学・政治という・三つのコンテクストについて論じた。一見ジャリの批評では主観的な視点や語りが採用されているように見える。だがそれが実は新聞の三面記事や雑誌記事のパロディになっていることから、たんなるフィクションではなく、二十世紀初頭の現実政治や社会的コンテクストに開かれていることを例証した。(2)日仏学会における発表では、ジャリの代表作である「ユビュもの」の検討を通して、三つの異なるアリュージョン(仄めかし)の方法と、それぞれのケースの理論的射程について報告した。前期の作品とは異なり、後期になるとアリュージョンによって批判されている対象(反軍国主義や反植民主義)が特定しやすくなることを指摘したうえで、そこにジャリの美学的転回を読み込んだ。(3)後期ジャリの代表作『いとしい人』は、ロドルフ・テプフェール(コマ割り漫画の発明者)のイラストブックの翻案からなる戯曲であり、そこには固有の文化的コンテクスト(ジャリの幼少期における読書体験)が読み取れる。論考では、ジャリが作品でテプフェールを参照している箇所を検証し、そこにやはり幼年期の経験を象徴するマリオネット劇(ジャリの戯曲の大半は人形劇用に書かれている)に通じる要素-匿名性、非人称性、類型論-が認められることを明らかにした。(4)またフランスで刊行されているジャリの研究誌の特集号に論文を二本発表し(二つの詩の分析を担当)、暗示されている具体的なイメージとその意義を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初はジャリの前期作品のみを研究対象に設定していたが、先行研究が比較的少ない後期作品の分析に取り組むことで、まとまった成果を公表することができた(くわえてジャリの後期作品の全体における位置づけが明確になった)。また前期作品についても、後期作品との関係性のなかで再検討することで、これまでには見えていなかった側面(詩の韻律の問題等)に注目することができ、それについての論文を書き継ぐことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
11の欄にも記したが、ジャリの後期作品の分析を通して見えてきた、前期作品のコンテクストの再検討を課題とする。引き続きドミニク・マングノーらが提唱するコンテクスト論を参照しつつ、テクスト-社会-作者の三項関係に力点を置いた綜合的な研究を心がける。当初、本研究は比較的大きなコンテクスト(十九世紀末におけるイデアリスムやオカルティスムの復権といった思想史的コンテクスト)に注目していたが、一年間の研究を通して、次第にジャリの作品に固有のコンテクストの抽出作業に関心が向かうようになった。ただそのためには地道な実地調査が不可欠となる。昨年度は二度フランスの国立図書館で調査を実施したが、本年度も引き続きこれを行う。
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