2012 Fiscal Year Annual Research Report
言語コミュニケーションにおけるイメージの役割―アルフレッド・ジャリの場合
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11J05538
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
合田 陽祐 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Keywords | アルフレッド・ジャリ / メルキュール・ド・フランス / リストと列挙 / アンソロジー / ドレフュス事件 / 作家の共同体 / コラージュ / テクスト生成 |
Research Abstract |
本年度は次の作品を検討し、学会発表と論文においてその成果を発表した。(1)『反キリスト皇帝』(1895)と『昼と夜』(1897)、(2)『小暦』(1899)、(3)『フォストロール博士の言行録』(1898~1900)、(4)『メッサリナ』(1901)。 (1)の分析は、ジャリの考案したパタフィジックが19世紀末に流行した思想を換骨奪胎した理論であることを示し、それがどのように二つの作品で実践されているのかを明らかにした。この論文では「美術批評家としてのジャリ」の位置も思想史の観点から問うことができた。(2)では、ジャリによる列挙の詩学を発話行為論の観点から考察した。『小暦』の最後で、ジャリは135名の人名を数え上げているが、その配列や各人の名前の形容の仕方には法則が含まれることを明らかにした。『小暦』はドレフユス事件をコンテクストとする政治的な作品でもあるので、これまでこの人名リストにも政治性ばかりが読み込まれてきた。これに対して本研究の意義は、リストが現実の社会的事象と切り離されても、自律的な構造を持っていることを指摘した点にある。(3)の分析では、単独で雑誌に発表された『フォストロール博士』の第三章が、アンソロジー、コラージュ、モンタージュといった二次的エクリチュールから成ることを示した。この第三章の間テクストには、先行研究では指摘されていない『メルキュール・ド・フランス』誌からのパスティッシュが多く含まれている。それらとジャリのテクストとの比較分析を通して、『フォストロール博士』執筆の背景に、ある種の「作家の共同体」へのジャリのこだわりが読み取れることを明らかにした。(4)では、ジャリが『メッサリナ』の登場人物をペア化する方法に注目した。この小説のテクストにはヴァリアントがあるが、最初のバージョンと決定稿のバージョンでは、異なるペア化の方法が採用されている。そこで、決定稿におけるジャリによる書き換えと、それに伴う新たなペア化の装置の登場が、作品の構造にまで変化をもたらしていることを証明した。 これらの作品において、ジャリは常に「どのようにテクストを読ませるか」という問題を中心に据えている。ジャリの詩学の根幹に、こうしたコミュニケーションの問いがあることを具体例を交えて説得的に示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
対象に設定したすべての作品を分析し、その成果を発表できたため、目標は達成できたといえる。さらに、二次文献や関連文献をおさえてゆくなかで、より総合的な視座を獲得することができたため、当初の計画よりも充実した研究が実施できた。これによりこれまでに論じた問題もより簡潔に整理して再提示することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2013-2014年度はまとめの研究を行う。これまで個別に取り組んできたコミュニケーションの問題と、エクフラーシスの問題(詩と散文における絵画的イメージの使用の問題)を総合し、その理論面と多様な実践の形態を説得的に示すことが課題となる。 その記述において問題視したいのは、作品や年代によって異なるジャリの関心やその実践の多様性である。そのためクロノロジックな論述形式を守りつつ、間テクストの一覧を表などを用いて視覚的にもわかりやすく提示するようにする。 本年度は全国規模の学会発表を行い、さらに仏語系以外の研究者も寄稿する紀要論集に論文を投稿するため、専門家以外の研究者も理解できるような、具体例を豊富に交えた議論の構築を心がける。
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