2011 Fiscal Year Annual Research Report
サメ類の胎生はなぜ獲得されたのか : サメ類の生殖システムの進化
Project/Area Number |
11J05588
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
冨田 武照 北海道大学, 総合博物館, 特別研究員(PD)
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Keywords | 胎生 / 卵生 / 板鰓類 / マンタ |
Research Abstract |
本研究は、我々哺乳類のように親の体内で子供を長期間育てる胎生という生殖システムがどのような過程で進化してきたのか、板鰓類(サメ・エイ類)から明らかにしようとするものである。今年度の研究の過程で、哺乳類や一部のサメ類のように胎盤と膀の尾を形成する「胎盤型胎生」と、一般的な魚のように卵を産み付ける「卵生」の中間段階として、エイ類の生殖システムが重要な鍵となることに気づき、エイ類の生殖システムの解明に取り組んだ。エイ類は、胎盤や臍の尾を形成しないにも関わらず、親の子宮内で半年ほど子供を育てるという生殖システムを持つ。私は、沖縄美ら海水族館と共同でい、妊娠したマンタ(最大のエイ類)のエコー検査で収集したデータの解析、マンタの死産個体や新生個体の解剖学的観察を行った。これは、世界で初めて胎生板鰓類の胎児の生態を直接的に観察した研究である。本研究により、エイ類の胎児の呼吸システムは卵生のサメ類に近いのに対し、栄養を摂取するシステムは胎盤型胎生のサメ類に近いなど、エイ類の生殖システムは卵生と胎盤型胎生の両方の特徴を持っていることが明らかになった。これは胎盤型胎生と卵生の間の進化におけるギャップを埋める重要な発見となった。この結果は、現在投稿論文としてまとめ、沖縄美ら海水族館と共同で英文誌に投稿中である。さらに、本研究において、生殖システムの進化と遊泳性/底生という生態の進化が同期しているとする仮説を持っており、サメ・エイ類の鱗や鰭形態の流体力学的特性から遊泳速度を推定する研究を行っており、その研究結果の一部は2011年度古生物学会において口頭発表を行った。この研究は現在、カリフォルニア大学・デービス校と主に共同で継続して研究を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
流体力学を用いた機能形態学的研究についてはおおむね計画通りに進んでいる。また、胎生の進化について化石だけでなく、現生種(現生エイ類)からのアプローチが重要であることが明らかになったことは大きな進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
エイ類の遊泳性/底生性が形態としてどのように表れるのか明らかにする予定である。現在の方策として、カリフォルニア大学と共同で形態解析の手法をもとに遊泳性/底生性がどのように動物の鏡面対称性に影響するのかを調べることを計画している。これが明らかになると、化石を含めたエイ類の遊泳性/底生性の進化の過程が明らかになり、生殖システムの進化と遊泳性/底生性の進化の比較が可能となる。
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Research Products
(3 results)