2011 Fiscal Year Annual Research Report
鉄系高温超伝導体に対する理論的考察 : ペアリング対称性と超伝導機構の解明に向けて
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11J06067
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
増田 啓介 早稲田大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 多軌道超伝導 / 重い電子系 / ペアリング対称性 / 超伝導機構 / 鉄系高温超伝導体 |
Research Abstract |
我々の研究対象である鉄系高温超伝導体は多軌道性を有することが知られている。この物質群の発見以前に存在していたほとんどの超伝導体は単一軌道超伝導体であったために、物質が多軌道性を有する場合にどのようにして超伝導秩序が生じるのかという問題に関しては未だ解決していない問題が数多く存在する。昨年度は、このような多軌道系物質における超伝導の起源について研究を行った。鉄系高温超伝導体においては5つの3d軌道がフェルミ準位近傍で複雑に絡み合っているために最低でも5軌道模型を用いて解析を行う必要がある。しかしながら計算コスト等の問題で、このような5軌道模型を用い超伝導相を詳細に解析することは容易ではない。そこで我々はよりシンプルな多軌道系である重い電子系に着目し、この系における超伝導について解析を行った。重い電子系は局在性の強いf電子と遍歴性の強い伝導電子によって構成される2軌道系であり、周期アンダーソン模型によってその電子状態がよく記述されることが知られている。我々はこの様な周期アンダーソン模型を用い、重い電子系における超伝導を平均場近似の範囲で解析した。その結果、f電子と伝導電子がクーパー対を組むことでs波超伝導が安定化されるという興味深い結果を得た。重い電子系においてはf電子間のクーロン斥力が支配的であるため、通常s波超伝導は生じづらいものと考えられている。我々が今回考慮したf電子と伝導電子によるクーパー対はこれまでの研究でさほど取り上げられてこなかったものであり、このようなクーパー対を考えたことによってs波超伝導が安定化したものと考えられる。このような重い電子系におけるs波超伝導は実際に実験でも確認されており、今後このような実験と我々の理論を比較していければと考えている。また最終的には、重い電子系超伝導に関して得た知見を鉄系高温超伝導体の研究に応用していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度の初めは震災等の影響で研究室に入室できず研究がやや遅れていた。しかし、その後7月頃から研究結果が出そろい始め国内会議や国際会議等で発表を行うことができた。また現在はこの研究テーマに関する論文を執筆している段階である。総じておおむね順調に進んでいるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では鉄系高温超伝導体に関する不純物、準粒子寿命の効果について解析を行う予定であったが、研究分野の進展が非常に早いという事情もあり、鉄系高温超伝導体と同じく多軌道性を有する重い電子系に関する超伝導に着目し、この系の超伝導に関し研究を進めている。最終的には重い電子系に関して得た知見を鉄系超伝導体に生かした研究ができればと考えている。
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