2012 Fiscal Year Annual Research Report
西アジア領域国家形成過程における地域社会の変容:構造と構成原理の考古学的研究
Project/Area Number |
11J06269
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
有松 唯 広島大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | イラン北東部 / 遺跡分布 / 適応戦略 |
Research Abstract |
今年度は、「研究計画調書」の「研究目的」(1)および(5)を実現させるべく、主にイラン北東部に関するデータの収集及びまとめを実施した。 具体的には、昨年度末に実施したイランでの資料調査について、成果のまとめと発表を実施した。1970年代に実施された広島大学イラン学術調査隊の調査資料についての、イラン所蔵分の未公表資料調査が完了したためである。それに基づき、基礎的な報告書を作成し、概報という形ながら出版することができた。1970年代半ばの調査実施以降、未報告のままで保管されていたこれら資料について基礎的データを出版することができたのは、重要な成果と考える。これら成果に基づき、イラン北部青銅器時代編年の精査を行うことができた。同様の物質文化編年作業は昨年度も発表したが、当資料調査が完了していなかったことから、あくまで予察的なものにとどまっていた。昨年度の成果を検証して、従来の解釈とは異なる青銅器時代の物質文化変化の画期と様相指摘した他、当地で従来一括して捉えられてきた彩文土器についても通時的変化と時期ごとの特徴を示した。当地では従来、この彩文土器の消滅が物質文化変化の画期と捉えられてきた。しかし生成や消滅過程の詳細は、着目されてこなかった。今回の調査によってこの土器の消滅過程の長期にわたる段階的様相を明らかにすることができた。土器の機能の変化及び彩文土器製作技術の技術的衰退が、諸段階の背景として想定できる。その結果は、かつて民族交代と解釈されてきたこの土器の消滅現象について、実証的な反証を呈したことになる。 さらに時期区分に沿って採集土器分布の地域的多様性を検証した結果、紀元前5千年紀から4千年紀にかけて、居住が本格化したことが明らかになった。中東最高峰の山脈がそびえる当地において、人類集団の本格的な定着が実現したのは、当期からであると言える。その過程を詳らかにすることは、生態環境の多様性に対しての適応戦略の画期として、さらなる探求に値すると考える。 当期、同様の土器が広域で分布するようになる現象が特徴として指摘されてきたが、解釈や背景は定まっていなかった。 遺跡分布と土器分布傾向から導いたその時期の人類集団の動態からは、従来想定されていた一律な分布域の拡大ではなく、拡散しながらも時に地域酌多様性や分布域の縮小が生じるという、流動的な様相を明らかにすることができた。上記適応の具体的様相を明らかにする端緒として、意義があると考える。関連する成果については、昨年度に引き続き広島大学関連の媒体での発表を重視した。対象遺跡や資料の詳細は、『広島大学考古学研究室紀要』で出版した。また、西アジア考古学会およびオリエント学会という国内での主要学会で発表した。こうした成果は今後、国内外の学術雑誌に投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2012年度中に予定していたイラン・イスラム共和国での資料調査が、当国の都合で実施できなかった。 そのため資料収集に遅れが生じている。一方で、昨年度の課題としていた欧文雑誌への投稿(査読中)を実施できたのは、成果と考える。国内外での学会・研究会等でも成果発表を行うことができた。また、所属先である広島大学関連資料の調査をほぼ終了することができた。成果の一部は概報として発表済である。2013年度中の本報告作成へむけての素地を整えることもできたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は成果のまとめと発表を重点的に行う。広島大学学術調査の報告書出版にむけて、本年度までに完了した関連資料調査の編集を進める。研究目的(1)から(5)を統合して、研究課題に対するまとめを達成する。そして研究成果を欧米学術雑誌に投稿する。 またこれまでの成果を今後に活かすために、イラン北東部に出向いての資料調査と実地見学を予定している。当地担当者の内諾は得ており、正式許可取得に向け手続き行う。さらに、イラン北東部の標準遺跡であるトゥラン・テペ遺跡関連データ研究の準備を本格化する。フランス、ルネ・ギヌヴェ研究所の担当者からは2013年3月からの一年間(研究計画最終年度)、当研究所における研究活動の正式許可を取得した。実現のため、ビザ取得等の事務手続きと予備的研究を完了する。
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[Journal Article] 2012 Supplementaiy Report of the Iran-Japan Joint Research Study of the Gorgan Material in the National Museum of Iran, Tehran」『Annual report of the Humanities Research Institute2012
Author(s)
Ohtsu, T., Funise, K., Nojima, H., Arimatsu, Y., K. Wakiyama, K., Yokoyama, E. and T. Imafuku
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Journal Title
Annual report of the Humanities Research Institute
Volume: 23
Pages: 71-88
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