2011 Fiscal Year Annual Research Report
中世寺院史料に基づく儀礼分析を通した宗教的世界観形成の研究
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11J06498
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
舩田 淳一 東北大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中世寺院 / 仏教 / 儀礼 / 南都 / 春日社 / 興福寺 / 西大寺 / 講式 |
Research Abstract |
平成23年度は当初の研究計画に沿って、主に文献史料の収集を重点的に実施した。現在の奈良の寺社に収蔵される中世宗教儀礼史料がその中心である。本研究は中世国家に影響力を誇った大寺社が儀礼という媒体を通じて、神仏信仰の種々の形態と、その背景をなす宗教的世界観を、広く民衆を含む在地社会に定着させていった過程について、これを精神史・思想史上の問題として論じるものであり、そのモデルケースとして興福寺・春日社・西大寺を選定した。 春日社と一体化して中世奈良を支配していた興福寺については、奈良文化財研究所が所蔵する史料原本の写真帳を閲覧し、講式と呼ばれる諸階層に流通した神仏讃嘆儀礼の史料から、特に興福寺僧貞慶の作成になるものを中心に選別し複写した(5・7・9・11月に実施)。また興福寺の末寺として本寺の奈良支配を補完する役割を果たしたのが西大寺だが、同寺では直接、史料原本を閲覧し、デジタルカメラで写真撮影できたことは貴重であった(10月に実施)。西大寺には、更にその末寺であり庶民層の葬送を担った白毫寺の一切経会という儀礼の次第書類が多数伝来しており、それが春日信仰と深く関わるものであっことが調査によって判明した。そして興福寺-西大寺-白毫寺という本末関係のネットワークを、春日神という神祗が横断しつつ、中世奈良の人々の精神世界を宗教的に把握していく様を、如実に浮き上がらせることができたのは意義ある研究成果であった。なお本研究の関連史料は、東京大学史料編纂書・国文学研究資料館などにもマイクロフィルムが所蔵されており、そこでも史料調査を実施している。また同時に奈良のフィールドワークとして春日若宮おん祭の調査を実施した(12月)。中世奈良の寺社における儀礼研究は、まず基本史料の地道な発掘・整理から始める必要があり、思想史の研究素材を大きく拡充本できる点に、本研究の重要性が存するのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は研究計画の通りに、中世奈良の寺院における宗教儀礼の実態究明に資する史料類の調査を実施することができた。一部、所蔵者側の意向で閲覧できなかったものもあるが、貴重な史料を撮影・複写することができ、そこから得られた知見を反映させた学会発表も行った。よっておおむね順調と自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、定期的に奈良の寺社が所蔵する史料の調査を継続・深化させてゆく計画であるが、本研究の射程は古文書や古典籍の調査に留まるものではない。平成23年度は、春日若宮おん祭の調査のみに終わったが、現在に伝承される奈良の寺社の宗教儀礼に対するフィールドワークを、これまで以上に強化してゆく必要がある。現行の宗教儀礼であっても、中世における宗教儀礼の実態を闡明するための、重要な手掛かりとなりうることが確認された意味は大きく、儀礼の現場と文献史料をより深くリンクさせてゆく方法の模索も今後の研究の重要な課題である。また「研究計画の変更」ではないが、奈良以外の寺院に中世奈良の宗教儀礼に関わる史料の伝来していることが、ここまでの研究で新たに判明してきたため、奈良に限定せず調査の幅を拡大してゆく予定である。
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Research Products
(3 results)