2012 Fiscal Year Annual Research Report
中世寺院史料に基づく儀礼分析を通した宗教的世界観形成の研究
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11J06498
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
舩田 淳一 東北大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中世寺院 / 儀礼 / 南都 / 春日 / 修験道 / 舎利信仰 / 西大寺 / 神仏習合 |
Research Abstract |
本研究は中世国家に影響力を誇った大寺社が儀礼という媒体を通じて、神仏信仰の種々の形態と、その背景をなす宗教的世界観を、広く民衆を含む在地社会に定着させていった過程について、これを思想史上の問題として論じるものである。そしてそのモデルケースとして、中世の奈良という文化圏を選定している。よって前年度に引き続いて、現在の奈良の寺社に収蔵される中世宗教儀礼史料を中心に調査・収集を実施し、思想内容や信仰面への分析を行った。 平成24年度の研究成果は、主に3点に集約可能である。 (1)白毫寺の一切経会という神仏習合の儀礼については、前年度から継続的に史料の調査・分析を行っているが、関連史料探索の手を東京の研究機関へも広げたことで(東大史料編纂所・国文学研究資料館・国立公文書館などを対象として5・6月に調査を実施)、新たな知見が得られ考察を深めることができた。そしてこの儀礼は、清浄を尊ぶ神々が死の穢れを忌避しなくなるという神祇信仰の中世的変容が窺え、極めて重要な思想史的意義を有するものであることを結論づけた。 (2)新たに中世奈良の修験道の儀礼についても研究に着手した。対象は、これまで研究の乏しかった『金峰山秘密伝』という儀礼史料である。まず『秘密伝』諸本の整理を行うべく、目録類を手掛かりに本書の伝本の所蔵先を訪れ、調査を行った(9月に集中的に実施)。その後、思想分析に入り、蔵王権現という素朴な山の神の信仰が、儀礼の実践を通じて大きく展開してゆく過程を跡づけた。 (3)当初の研究計画には、中世における仏舎利(釈迦の遺骨)崇拝儀礼の研究が含まれている。24年度は、そのための基礎作業として、奈良の舎利信仰の実態を探るべく西大寺文書などの調査を行い(東大史料編纂所・奈良文化財研究所を対象に11月に実施)、今後の研究への見通しを立てることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は研究計画の通りに進行した。中世奈良の寺院における宗教儀礼の実態究明に資する史料類の調査をトラブルなく実施することができ、それに基づく思想分析も充分に深めることができた。さらにそこから得られた知見を盛り込んだ学会発表も行った。よっておおむね順調と自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、定期的に奈良の寺社が所蔵する史料の調査を継続・深化させてゆく計画であるが、これまで以上に、儀礼史料の思想史的分析・考察の作業を重点的に行わなくてはならない。だが宗教儀礼の研究は、いまだその方法論が確立されているわけではない。よって儀礼史料それ自体にどこまでもこだわって分析を進めるという方法も有り得る。だが本研究課題にとって、それでは不十分である。ある特定の宗教儀礼を思想史の問題として分析する場合には、歴史的・文化的背景を充分に踏まえておかなくては、その特質や意義を闡明するに至らないことを、再確認するような局面に、平成24年度の研究では幾度か直面した。もちろんこれは「研究計画の変更」を要請するものではなく、むしろ今後の研究の推進方策に大きな示唆を与えるものとして重要な意味を持つ出来事であった。
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