2012 Fiscal Year Annual Research Report
イタリア・スロベニア・クロアチア間国境地域の「国際協力と共生」可能性の質的調査
Project/Area Number |
11J06880
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鈴木 鉄忠 中央大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 国境地域 / フィールド・ワーク / 社会運動 / 多文化共生 / ディアスポラ / 集合的アイデンティティ / 記憶 / トリエステ;イストリア |
Research Abstract |
本研究は次の4つの研究課題を設定した。それらに対応させて当該年度の研究成果を述べる。 1、【課題A】実証研究:国境の歴史認識をめぐる団体・地方自治体間のネットワーク分析 2013年度イタリア「回想の記念日」を対象にした現地調査を行った。トリエステのイタリア人ディアスポラ団体が故国喪失を伴う離散の出来事をどう記憶し表現するかを参与観察と聞き取り調査により調べた。その結果、愛国主義的な団体が主導する公式行事が今年も実施され、犠牲ディアスポラを前面に押し出した動員がなされていた。しかしながら、こうした団体には属さない当事者個人からは、公的な記憶の仕方とは異なる証言が得られた。 2、【課題B】質的調査:「国際協力と共生」を目指す団体の集合的アイデンティティ形成の考察 トリエステの市民団体「チルコロ・イストリア文化会」に国境を越えた文化活動に関する実態調査を行った。その結果、2013年7月のクロアチアのEU加盟に向けて、イストリア半島の地域発展に関する共同研究、EUとの越境地域協力の事業が進んでいることがわかった。また多様なメンバーからなる当団体の「われわれ意識」がどう構築されるのかをA・メルッチの集合的アイデンティティから分析した。その結果、異なるネイションの間に平等な社会関係が一時的でも自然発生するような"共にあること"(コムニタスcomunitas)の創造が「共生」の"共"の内実としてあり得ることが示唆された。 3、【課題C】理論研究:地域の社会運動に関する諸概念の検討 当研究対象の間国境地域における社会運動について、「境界領域」をキーコンセプトに整理を試みた。 4、【課題D】調査関係:<調査する側>と<される側>の関係のリフレクション 現地のジャーナリストおよび政治学者と<外部者が見た国境の現実>と<生活者>のそれの知見の交換を行った。国外調査の文書・写真記録をすべてフィールドノーツにまとめ今後の考察の基礎資料とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先述の【課題A】について、ディアスポラ経験を団体活動に関与しない普通の人から聞き取ることができた。【課題B】について、「共生」の"共"の内実をフィールド・ワークの質的データに即して明らかにした。【課題C】について、理論のキーコンセプトである「境界領域」を実証に即して深める必要がある。【課題D】について、随時現地の調査協力者とメール等で連絡を取り合い、現地調査時には円滑に互いの知見を交換することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
【課題A】では、公式追悼記念日に動員されるネットワークを時系列的に分析していく必要がある。【課題B】では、「共生」は"状態"ではなく"過程"であるという観点から、"共にあることcomunitas"が"生成becoming"する動的な活動を"共成"として捉える必要がある。【課題C】では、間国境地域における空間的・歴史的特徴を「境界領域」「フロンティア」のキーワードで一般化する課題がある。【課題D】では、日本からはメールなどで現地と随時連絡を取り合い、現地滞在時には調査と成果発表が円滑に行えるように調査環境と関係を作る。またトリエステの精神病院廃止運動の聞き取り調査により、市民社会の「国際協力と共生」という論点での調査の進展があった。 よって今後は市民も射程に入れた「共生」の研究も推進する。
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