2013 Fiscal Year Annual Research Report
イタリア・スロベニア・クロアチア間国境地域の「国際協力と共生」可能性の質的調査
Project/Area Number |
11J06880
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鈴木 鉄忠 中央大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 国境地域 / フィールド・ワーク / 社会運動 / 多文化共生 / ディアスポラ / "境界領域" / 記憶 / トリエステ ; イストリア |
Research Abstract |
本研究は次の4つの研究課題を設定した。それらに対応させて当該年度の研究成果を述べる。 1. 【課題A】実証研究 : 国境の歴史認識をめぐる団体・地方自治体間のネットワーク分析 イタリア「回想の記念日」の法制化から10周年となる本年は、ほぼすべてのイストリア系ディアスポラ団体が「記念日」の企画に関与していた。「歴史認識」をめぐる各国の緊張は、少なくともローカルのレベルでは緩和されていた。この変化が何に由来するのかが今後の課題となった。 2. 【課題B】質的調査 : 「国際協力と共生」を目指す団体の「私たち」の考察 クロアチアの炭坑の町ラビンにて、調査団体の「チルコロ・イストリア」文化会が現地の自治体と協働企画する「炭鉱事故74周年追悼会」に参加した。毎年行われてきた追悼会は、犠牲者への弔いだけでなく、〈これからこの町に生まれ来るものたち〉への継承を意図した活動を展開していた。炭坑の遺構を部分的に保存しながら現在の住民に必要な図書館へとつくりかえることに象徴される「メタモルフォーゼ」の力は、"境界領域"に暮らす人々の構想力を示していることがわかった。 3. 【課題C】理論研究 : 地域の社会運動に関する諸概念の検討 共著『"境界領域"のフィールドワーク』にて成果発表した。国境で区切られた領域単位を横断する前近代の「歴史的地域」を、地域固有の知覚・歴史・伝統に根ざしながら再創造していく一端をフィールドワークから描いた。「歴史的地域」を表象する際に、「国民」の分類単位を前提にした社会的構築が行われる場合、国境を越える地域の運動の制約になることも指摘した。 4. 【課題D】調査関係 : 〈調査する側〉と〈される側〉の関係のリフレクション トリエステの政治学者でチルコロ・イストリア文化会の協力者であるビアジョ・マニーノは、今年刊行した単著("Sono andato via")のなかで、申請者との対話を第5章に所収した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで蓄積されたデータと知見に基づき、その成果の一部を共著や論文で発表した。受入研究者が編者となった著書『"境界領域"のフィールドワーク』のなかで、間国境地域における「国際協力と共生」実現のキーファクターとして前近代の「歴史的地域」に着目し、それが現在の集合行為のなかで具体化していく(あるいは妨げられる)プロセスをフィールドワークから描出した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、イタリア・スロベニア・クロアチア間国境地城からの21世紀型"共成(codevelopmemt)"システムの理論を提示すること、そして日本列島の"境界領域"と東アジアの地政変動のなかで生じている「国境問題」と比較可能な次元まで研究を深化させること、本研究から副次的に生まれた市民社会における共生――トリエステの精神病院閉鎖の取り組み――の中間成果を発表することである。
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