2011 Fiscal Year Annual Research Report
フランス文学における蒐集家像についての研究―バルザックからブルーストへ―
Project/Area Number |
11J06909
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
浅間 哲平 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | プルースト / 蒐集家 / 小説 / バルザック / フランス文学 / 19世紀 / コレクション |
Research Abstract |
小説『失われた時を求めて』で知られるマルセル・プルースト(1871-1922)が1908年頃に書き溜めた来完の評論『サント=ブーヴに抗して』に含まれるバルザック論を中心に研究を進めた。これまでのプルーストの草稿についての研究によって、小説『失われた時を求めて』は『サント=ブーヴに抗して』を書き直す作業の中から生まれたことが判明している。特に、このバルザック論は、評論と小説を両方とも含む点で、他の草稿と異なっていると考えられている。『サント=ブーヴに抗して』全般に見られる語り手と母の対話形式の「評論」は、草稿群の後半に至りわずかの空白をはさんだだけで、架空の登場人物が各々のバルザック観を語る「小説」へと変化するからである。 『サント=ブーヴに抗して』の中のバルザック論は、小説の生成する場として重要であるにもかかわらず、草稿としてばらばらのメモの形で書き残されたことから、これまで説得的な読解がなされてこなかった。本研究では、この草稿の中のコレクションを論じた箇所を中心に置くことで、小説の創作と蒐集を関係付ける首尾一貫した論考として分析することを試みた。 そのために、プルーストの書及があるバルザック作品の中で蒐集家が登場する三作品(『絶対の探求』、『従兄ポンス』、『トゥールの司祭』)を精読し、プルーストの言及こそないものの小誠中コレクションが重要な位置を占めるバルザックの他の作品(『イヴの娘』、『田舎のミューズ』、『あら皮』、『ピエール・グラッスー』、『ラブイユーズ』)と比較することで、プルーストの選択がどのような特色を持っているのかを明らかにした。また以上の作業の中で、プルーストが、バルザックの小説に描かれる蒐集家だけではなく、バルザック自身の蒐集活動に閣心を持っていたことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究では、プルーストの特定の草稿で言及されるバルザックの蒐集家小説につい、プルーストとバルザック双方の文章を網羅的に調査することを試みた。バルザックの作品という広大なコーパスの中から本研究の問題意識に関わるものを精読することで、プルーストが蒐集活動と小説創作に一定の関係性を見出していたことが明らかになり、研究の目的を達成することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究を踏まえて、プルーストのバルザック論が『失われた時を求めて』の中のどの箇所に取り込まれていったのかを明らかにして行く。それとともに、本研究のもう一つの軸であるゴンクール兄弟がプルーストに与えた影響について検証し、フランス文学における蒐集家像を多角的な見地から明らかにしたい。本年度は資料の考証が作業の中心となり、研究発表ができなかったので研究結果を広く示していくことを心がけたい。
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