2011 Fiscal Year Annual Research Report
接触言語ジュバ・アラビア語のドキュメンテーション : その多様性の見地から
Project/Area Number |
11J06924
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
仲尾 周一郎 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 南スーダン / ジュバ・アラビア語 / 社会言語学 / 記述言語学 / ピジン・クレオール / 言語接触 / ドキュメンテーション / アラビア語 |
Research Abstract |
平成23年度は、南スーダン独立および東日本大震災の影響を受けて南スーダンへの渡航が困難となった。このため、ジュバ・アラビア語の多様性に関して文献調査に基づく歴史言語学および言語接触論の観点を加えた上で、当初の目標および計画を再検討の上、変更した。また国内外の研究会・学会・会議においてこの成果を発表し、意見交換を行った。 従来の研究ではジュバ・アラビア語はスーダン・アラビア語とバリ語(東ナイル諸語)の言語接触によって発生したとされてきた。しかし、ジュバ・アラビア語の(1)超分節音韻論、(2)存在構文から焦点化構文への文法化、(3)語彙借用・翻訳借用・文法借用における南スーダンの諸言語の影響を再検討した結果、アチョリ語(ルオ諸語)やマディ語(中央スーダン諸語)からの無視できない影響が見られることが明らかになった。 また、国内外の図書館において植民地期の文献を収集し、当時のナイル流域において西欧人行政官や旅行者が話したアラビア語ピジンの資料、および脱部族化した黒人奴隷のアラビア語変種の資料を新たに発見した。これにより、ジュバ・アラビア語の成立に植民地西欧人が関係したこと、マクロな歴史的視点からはジュバ・アラビア語がバルカン半島から東アフリカまで散在する、種々の「黒人奴隷のアラビア語」の一端に位置づけられることを明らかにした。 さらに、平成23年9月にメルボルンのラトローブ大学言語類型論研究センターに所属し、メルボルン市郊外の南スーダン難民を対象とする言語調査を行った。この調査ではメルボルンにおいて脱クレオール化したジュバ・アラビア語変種に関する言語記述を行い、社会保障局などでジュバ・アラビア語を含む南スーダンの諸言語による出版物を収集した。スーダン共和国ハルツーム以外のディアスポラにおけるジュバ・アラビア語の実態としては、本研究が世界初のものであり、その多様性の一端を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画を見直した結果、当初の研究の目的では考慮していなかった歴史言語学的視点を導入し、文献資料を収集することにより、ジュバ・アラビア語の歴史的多様性に関する新発見が得られた。さらに、メルボルンでの調査の結果、南スーダン・ジュバでは調査がやや困難である、脱クレオール化したジュバ・アラビア語変種のデータ、およびジュバ・アラビア語による出版物を収集することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画としては、2012年度および2013年度夏季に南スーダンにおいて長期のフィールドワークを行い、ジュバ・アラビア語のドキュメンテーションおよび重点的に文法調査を行う。平成23年度の調査の結果、南スーダン最南部諸都市やジュバ市マラキア地区における言語状況が、ジュバ・アラビア語の発生時の言語環境を保持している可能性があるため、可能な限りこうした地域での調査を行う。南スーダンの政治的状況は十分安定的ではないため、渡航が困難な場合は引き続きメルボルンでの調査を続行する。
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Research Products
(9 results)