Research Abstract |
近年,sparse符号化(以下,SC)や独立成分分析(以下,ICA)は,画像の特徴抽出手法や,脳の初期視覚野の研究へと応用されている.本年度の研究の目的は,画像処理理論としても用いられているそれら理論を,脳の視覚計算理論の立場から再考察し,今後活用する新たな数理モデルを構築することである. 従来の数理モデルは,視覚の神経生理学的なデータと比較すると,大きく脳の視覚情報処理と異なる点が存在する.それは,脳の第一次視覚野上において,互いに距離の近い細胞は,似た反応性質を示すが,従来の数理モデルにおいては,近傍関係が導入されていないため,類似した反応を示さないことである.また,この問題を解くことは,視覚研究だけでなく,他分野の研究へも貢献できると考えられる.例を挙げると,従来の数理モデルから得られる画像の特徴の類似性を理解することは,さらなる解析を必要とするが,もし,上記問題を解くことができれば,得られた特徴の分布をみるだけで,その類似性を容易に理解することができ,特徴のクラスタリングや特徴間のセグメンテーションといった応用が期待できる.本研究では,この問題点を解消するために,近傍のモデル細胞には,線形相関という統計的な依存性があり,遠方の細胞同士は,統計的に独立であるとの仮定の下で,数理モデルの構築を行った. 最初に,数理モデルの挙動を確認するために,人工的な入力を用いた数値実験を行った.その結果から,構築された数理モデルは,SCやICA,またtopographic ICAと呼ばれる過去の数理モデルを拡張,一般化したものであることが分かった.自然画像を入力として用いた数値実験から,神経生理学的なデータで確認されているように,近傍のモデル細胞は,類似した特徴を表現していた.さらに,自然画像を用いて,階層モデルによる高次特徴の抽出も行い,興味深い特徴表現が得られたことを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目的は,平成24,25年度で使用する数理モデルの基礎を構築することであった.そして,本年度は,上記した問題点を解消する数理モデルを構築でき,今後2年間は,その数理モデルを使用もしくは拡張することによって,視覚ならびに画像処理の研究が可能であると考えている.したがって,本年度は,おおむね順調に進展していると評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,今後使用する数理モデルの基礎を構築することに重点を置いて研究を行った.構築された数理モデルは,機械学習と呼ばれる分野において,新規性があると考えられ,平成24年度は,その点を学術論文へとまとめる予定である.それと同時に,構築された数理モデルを視覚の研究へと応用し,得られた結果と神経生理学的なデータとのさらなる比較を行う予定である.また,研究の進行状況に応じて,構築された数理モデルの画像処理手法としての有効性についても検証したいと考えている.
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