2011 Fiscal Year Annual Research Report
大規模数値計算による複合自由度の競合と協調が織りなす新奇物性の開拓
Project/Area Number |
11J07601
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 宗 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 相転移 / モンテカルロ法 / 平均場近似 / 第一原理計算 |
Research Abstract |
本年度は、統計物理学や計算物理学と磁性化学の分野を結びつけるための準備期間と位置づけ、以下の3点について研究を推進してきた。 (1)当研究室で合成された分子磁性体の相転移の様相や酸化物の光学物性の検討を行った。分子磁性体は有機配位子と金属イオンの選択を巧みに行うことで、空間次元性を制御することができる。例えば、面内方向と面間方向の相互作用比が極端に異なる場合の物質をデザインすることも可能である。そうした系では通常の3次元系の相転移とは大きく異なる様相を示す。その解析を行うための大規模数値計算を準備している段階である。また、第一原理計算を用いた酸化チタンの光学物性の検討も行った。 (2)相転移点で破れる対称性を変化させずに相転移の次数を変化させるモデルを考案し、そのモデルの相転移を解析した。スピンクロスオーバー現象を説明するためのモデル(WajnHasz-Pickモデル)と、離散的対称性を破る相転移を説明するためのモデル(Potts モデル)を組み合わせた新しいモデル(透明状態のあるポッツモデル)を提案し、そのモデルを平均場近似や大規模数値計算(モンテカルロ法)により解析し、モデルパラメータと相転移の次数の関係、また、潜熱の関係を得ることに成功した。 (3)イジングモデルにおける熱揺らぎと量子揺らぎの相違点について検討した。量子アニーリング法と呼ばれる、ハミルトニアンの基底状態を求める汎用アルゴリズムが提案されて10年以上経過し、更に有用なアルゴリズムとして用いられるためには、基礎物理学的観点からその特性を明らかにする必要がある。フラストレーションのあるイジングモデルにおける熱揺らぎと量子揺らぎの共通点と異なる点を、相転移・動的特性の観点から明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
相転移の様相を変化させる基礎モデルの構築、及び解析的手法や大規模数値計算(モンテカルロ法)による解析を行うことができた。また、量子効果が顕著に効いている分子磁性体の考察を進め、大規模数値計算を行うためのプログラムを準備している段階である。モデル計算のみならず、第一原理計算の習得に努め、酸化チタンの光学物性の研究に役立てた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究で得られた統計物理学的知見(基礎物理学的視点)を元に、より物質科学に根ざした研究を推進する予定である。これまで当研究室で見出されてきた外部刺激に対して敏感な磁性材料における現象の微視的メカニズムをより理論的に検討していく。具体的には光で状態が急激に変化する磁性体の相転移や動的特性、元素置換や欠陥の導入による相転移の変化について考察を行う。また、その研究を達成するために必要な大規模数値計算のアルゴリズム開発も同時に行い、物質科学・統計物理学・計算物理学に対する貢献を進めていく。
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Research Products
(18 results)