2012 Fiscal Year Annual Research Report
大規模数値計算による複数自由度の競合と協調が織りなす新奇物性の開拓
Project/Area Number |
11J07601
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 宗 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 相転移 / 臨界現象 / 秩序崩壊過程 / 秩序形成過程 / フラストレーション / モンテカルロ法 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度までに得られた知見を活かし、かつ次年度に行う予定の研究の準備期間と位置づけ、以下に述べる3つのトピックについて検討した。 (1)当研究室で合成された2種類の元素から成る錯体の磁気的相互作用を理論的に考察した。構成元素が異なると、磁性が大きく変わることが磁気測定結果より明らかとなっていた。1つはMnとNbから構成される系であり、もう1つはMnとMoから構成される系である。前者はフェリ磁性を示し、後者は非磁性である。これらを統一的に理解するためにモデル計算を用いて考察を行ったところ、相互作用のオーダーが数倍程度異なる場合にこのようなことが起こることが明らかとなった。 (2)2次元フラストレーション連続スピン系の相転移に関する研究を行った。2次元連続スピン系においては、Mermin-Wagnerの定理により、スピンの長距離秩序は禁止されているため、渦欠陥の解離によるトポロジカル相転移が重要である。特にフラストレーション系においてはZ_2渦転移と呼ばれる特殊な相転移の存在が示唆されている。我々は複数の競合する相互作用がある三角格子反強磁性モデルを検討し、離散対称性の破れを伴う2次相転移とZ_2渦解離が同時に起こる現象を見出した。 (3)最適化問題における計算手法の1つである量子アニーリング法の実用的開発に取り組んだ。情報科学における重要な問題としてクラスタ分析があるが、ある場合には複雑ネットワーク上のイジング的相互作用で記述することを示し、量子揺らぎとして横磁場を印加することで量子アニーリング法を実装し、大規模数値計算を実行した。その結果、従来の方法に比べ、我々が検討した量子アニーリング法の方が効率よく解を得ることができることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は前年度に得た実験に関する様々な知見を活かした研究を推進することができた。特に、大越研究室で合成された錯体における磁気的相互作用の理論的考察を行うことができた。また来年度に実施する予定の研究の準備段階として位置付けられる、相転移や相転移が関係する非平衡現象(秩序形成過程・秩序崩壊過程)に関する統計物理学的研究を進めたほか、大規模数値計算手法の開発に取り組むこともできた。
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Strategy for Future Research Activity |
採用第一年目及び、第二年目に得られた統計物理学的知見を基礎とし、より実験状況に近いモデルの設計を行い、実験事実を理論的に考察することを目標とする。また、実験結果の再現のみならず、新しい物性の予言を目指した理論研究を展開する予定である。私の研究で取り扱う理論モデルは複数の自由度が競合し合い、かつ、協調しあう系であり、一般に通常のモンテカルロ法で平衡状態の情報を得るのは困難である。そのため、取り扱う理論モデルに即した計算手法の改善を試み、数値計算の大規模化についても、共同利用スーパーコンピュータシステムを利用し、積極的に推進していく予定である。
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Research Products
(23 results)