2012 Fiscal Year Annual Research Report
炎症による血液脳関門の破綻を転機としたCARASIL病態発症機序の解析
Project/Area Number |
11J07794
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
加藤 泰介 新潟大学, 脳研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | HtrA1 / CARASIL / 脳小血管 / 血液脳関門 |
Research Abstract |
High temperature requirement A1(HtrA1)は遺伝性脳小血管病の一つであるCARASILの原因遺伝子であり、HtrA1遺伝子変異によるプロテアーゼ機能喪失/低下がこの疾患の発症原因であることが推測されている。このような背景から我々は、CARASIL原因遺伝子HtrA1の欠損マウス(HtrA1-KOマウス)を作成し、疾患モデルとして応用することを計画した。本研究は、HtrA1-KOマウスを対象として、HtrA1の機能喪失がどのようにCARASIL病態を発症させるのかを明らかにすることを目的としている。 昨年度は、血管平滑筋が取り巻く脳大血管に着目し解析を進めた結果、HtrA1-KOマウスでは高齢期において血管平滑筋の変性が起こることを突き止めた。本年度は、血管平滑筋がペリサイトに置き換わった、血管径の小さい脳小血管にフォーカスを当て、詳細な解析を進めた。その結果、血管平滑筋同様、高齢のHtrA1-KOではペリサイトの血管被覆率が有意に低下しており、この所見は大脳皮質・海馬・線条体において認められた。さらに、血管径の調節にかかわる血管平滑筋・ペリサイトが変性した結果、HtrA1-KOマウスの脳血管では野生型のマウスに比して、有意な血管腔の拡大所見が認められた。この結果はHtrA1-KOマウスでは血管収縮能に障害があることを示唆している。 この月齢のHtrA1-KO・野生型マウスの脳より調整した細小血管由来mRNAを用いたマイクロアレイ解析の結果、HtrA1ノックアウトマウスの脳血管ではICAM-1をはじめとするいくつかの炎症性マーカー遺伝子の発現増加が認められた。 CARASILの病態背景にはHtrA1の基質であるTGFβファミリーシグナルの亢進が推定されている。これまでの研究によりHtrA1-KOマウスはCARASILに類似した脳血管変化を示すことが明らかとなってきた。そこで、CARASIL、孤発性脳小血管病に対する候補治療薬としてTGFβ阻害薬(ARB)の有効性を評価する目的で、本モデルに対して薬剤の長期投与を行い、血管変化を指標とした検討を進めることとした。一例目の解析の結果、HtrA1-KOマウスの高齢期で見られる軟膜化血管の拡張所見がカンデサルタン・アムロジピン投与両者で抑制されることが示唆された。 今年度の解析の結果求められた脳血管における所見は、高齢期のHtrA1-KOマウスでは血管平滑筋・ペリサイトの変性が起こり、その結果、機能的な変化を引き起こすことを示唆した点が非常に重要である。またこれらの変化の背景には炎症系の駆動が関わっている可能性を示せた点も非常に大きな進展であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HtrA1-KOマウスが高齢期において血液脳関門をつかさどる脳細小血管においてもペリサイトの異常を示すことを証明し、ヒトの脳小血管性認知症には細小血管の障害が関与することの傍証を示すことが出来た。また、炎症機転の関与の可能性も示唆するデータが出始め、治療法の確立への基礎研究も開始することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、構造上の異常のみならず、これらの所見が実際に脳血管の機能的な変化をもたらしていることを証明するための評価を開始する。具体的には血管病変の表れる20ヶ月齢以降のHtrA-KO、野生型マウスの二酸化炭素に対する脳血管応答性の測定を予定している。 また、今年度より開始した、カンデササルタン、ロサルタン等の採用機序の異なる薬剤の長期投与によって、HtrA1-KOマウスの脳血管性変化が抑制可能であるかの解析を進める。
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Research Products
(1 results)