Research Abstract |
キクイガイ科二枚貝類は,深海に沈んだ木材に穿孔して生活し,木を餌資源とする極めて特異な分類群である。共生細菌の獲得が本科の多様化を引き起こしたという仮説を検証するため,平成23年度は以下の項目を実施した。1.コペンハーゲン大学動物学博物館及びイギリス自然史博物館を訪問し,タイプ標本群の検討を行い,遺伝子塩基配列解析用標本の貸与を受けた。形態学的・分子系統学的検討を実施した結果,複数の新参同名を含むことが明らかとなった。また,数多く見いだされた未記載種の記載の準備をすすめ,特に南西太平洋産メオトキクイガイ属の5種について,形態学的,系統学的に詳細な検討を実施した。2.全世界から収集した標本を用いて,核28SrRNA,18SrRNA,H3遺伝子の部分長塩基配列を決定し,キクイガイ科内の分子系統解析を行い,分類体系の再編について検討した。その結果,亜科として見なすべき4つの分類群を初めて見いだし,うち1つは,キクイガイ科としては例外的な体制をもつ1種の新属新種からなる特異な分類群であることが明らかとなった。3.駿河湾において野外調査を実施し,得られたイノリキクイガイとチョウチョウキクイガイについて,鰓の超薄連続組織切片を作成,透過型電子顕微鏡下で鰓葉の構造と共生細菌を観察した。その結果,鰓の構造は両種でそれぞれ大きく異なるものの,菌細胞への酸素供給に適した構造であること,共生細菌は前者と後者で形態的に全く異なることが判った。これらのことから,共生細菌は好気的であるばかりでなく,ホスト毎に別種である可能性が高いことが示された。4.福島県東北部に産する相馬中村層群の上部ジュラ系から産出したニオガイ科二枚貝を記載するとともに,中生代の化石記録を精査して,本上科の木材食はジュラ紀中期に獲得された可能性が極めて高いことを明らかにし,Journal of Paleontology誌で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は,調査協力を予定していた漁船等が東日本大震災によって被災してしまったため,実験に使用するサンプルを予定通り入手することができない事態が生じた。そのため,予定していた実験系を計画通りに実施することが困難であった。しかし,他の船舶を利用した調査で得たサンプルや,これまでに収集したサンプルを用いて,特に鯉の微細構造などの予察的検討を行い,次年度に予定している研究のための基礎データ収集に努めた。
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