2011 Fiscal Year Annual Research Report
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11J08110
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
青井 隼人 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 宮古多良間方言 / 文法記述 / 「中舌母音」 / 音響分析 / 静的パラトグラフィー / 形態論 / アクセント |
Research Abstract |
本研究では、琉球語の一方言である宮古多良間方言の文法記述をおこなう。当該方言は宮古方言群と八重山方言群の「中間的な」言語特徴を持った方言であり、その体系的かつ包括的な文法記述は両方言群の研究にとって重要な成果をもたらしうる。とくに多良間方言を含む宮古方言群には「中舌母音」と呼ばれる通言語的に極めて珍しい特徴をもった母音が存在し、その詳細な音声学的・音韻論的研究は、琉球語学だけでなく、一般音声学・理論音韻論・歴史言語学などにも貢献しうる。 初年度である平成23年度は音声学・音韻論的な記述を中心に進めた。まず2011年7月に「中舌母音」の音声実態に関する口頭発表をおこなった(「舌端の狭めを伴う母音の音声的記述:宮古多良間方言の事例研究」於第2回2011年度「音韻特性」「危機方言」合同研究発表会)。「中舌母音」の特異な音声特徴は従来の研究においてすでに指摘されてはいたものの、その音声特徴の記述は主観的な観察に頼った断片的なものが多く、詳細な音声実態を把握するまでには至っていなかった。本研究は、2種類の器械音声学的手法(音響分析・静的パラトグラフィー)によって「中舌母音」を多角的な観点から記述し、それらの結果を統合することによって従来の観察とは異なる新たな音声的解釈を提示した。 2011年11月には3週間程度の現地調査をおこなった。同調査では、アクセントの記述のためのデータを中心に収集し、あわせて形態論の記述のためのデータも収集した。 宮古多良間方言の音韻論的記述は、「南琉球宮古方言の音韻構造」(コーパスに基づく言語学教育研究報告8)として公表した。この論文は最終的な文法記述の一部となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では前年度までの成果を公表し、現地調査によって文法記述に必要なデータを収集することを目指していた。実際には、成果報告を2つの国内学会と1つの査読論文においておこない、現地調査で音韻論的記述に必要なデータを充分な量収集できた。またそれらに加えて、次年度から本格的に開始する形態論とアクセントの記述に必要なデータもすでに集め始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は形態論とアクセントの記述を中心に進める予定である。それに必要なデータの収集はすでに始めているがまだ充分な量にはなっておらず、そのためのデータ収集を目的とした現地調査を5月におこなう。また現地調査は11月にも計画しており、そこでは自然談話(テキスト)の収集と書き起しの作業を開始する予定である。これまでの調査では調査項目に沿って話者からデータを抽出(エリシテーション)する方法でおこなってきたが、包括的な文法記述をおこなうためにはエリシテーションによるデータだけでは不十分である。エリシテーションによる調査のみに頼った調査では、その言語に現れるすべても文法要素を網羅できない可能性がある。テキストを見ることによってそれまでに見つかっていなかった新たな文法要素が発見されることが期待される。またすでに見つかっていた文法要素の新たな性質を見出すこともできるだろう。
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