2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代的唯名論の研究―ドイツ・オーストリア学派の観点から
Project/Area Number |
11J08282
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
秋葉 剛史 埼玉大学, 教養学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 分析哲学 / 形而上学 / 存在論 / 唯名論 / ドイツ・オーストリア学派 |
Research Abstract |
本研究の課題である「唯名論を現代的な観点から彫琢し擁護する」という目的の達成に向け、平成23年度中は以下のような主題に関する研究を行い、それぞれについて得た結果を発表した。 まず、トロープ(個別的属性)を想定することが伝統的な「普遍の問題」に対する唯名論的な解決にどのように貢献するのかを示すため、古典的唯名論(クラス唯名論、類似性唯名論)に対して実在論の側から指摘されてきたいくつかの問題点に注目し、「共外延性の問題」や「不完全な共同体」といった伝統的困難に対して、トロープ唯名論がいかにして解決を与えられるかを明らかにした。そのうえで、トロープ唯名論に対して指摘されうるさらなる問題として、トロープに期待される「普遍者の代理物」としての役割と「命題を真にするもの(truthmaker.以下"TM")」としての役割は両立しないという反論を取り上げ、トロープ同士の類似性のうちに自然なものとそうでないものを区別することを通じてこれに応えた。以上の成果は、日本哲学会において口頭発表した。 また、実在論に対する唯名論の優位を示すための論拠として、「最善のTMはトロープである」という論点は非常に有力にはたらくという見通しを具体化することを目指した。第一に、そのための準備作業として、何らかの種類の偶然的真理にTMを要求するならば、「すべての偶然的真理はTMをもつ」という誤った主張を認めねばならなくなる、という主旨の反論を取り上げ、論理結合子の真理関数性という考えに訴えてこれに応えた。第二に、上記の見通しの正しさをより包括的・説得的に示すため、述定的真理のTM候補として提案される「事態」「として対象(qua-object)」との比較検討のうえで、トロープこそが最善のTMだという本研究の主張を正当化した。以上の成果のうち、第一のものは学術誌(『科学哲学』)に投稿し掲載が決定し、第二の成果は博士論文としてとりまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である「現代的唯名論の彫琢と擁護」に向け、まずはそのために必要な基礎概念の明確化をほぼ当初の計画通りに進めることができた。具体的には、「トロープ」の概念と「形而上学的説明」の概念について、特に博士論文において立ち入った解明を与えた。また、本研究の擁護する存在論的枠組みの利点を示すための論点の一つとして見積もっていた「因果的排除の問題」についても、博士論文において部分的に考察に着手できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、研究計画書に記載した基本方針にしたがい探求を進めていく。特に今後の研究においては、伝統的な普遍の問題において扱われる主題に加えて、真理概念の問題、心の哲学の諸問題、自然言語の意味論、自然法則・因果性といった問題領域に注目してトロープ唯名論の枠組みを精緻化していくことを予定している。
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