2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J08608
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牛島 光一 東京大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2011 – 2013-03-31
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Keywords | タイ / 30バーツ医療保障制度 / 人的資本 / 健康評価 / 親の教育水準と子供の健康 / 教育政策 |
Research Abstract |
本研究プロジェクトの目的は健康と教育間の因果関係を明らかにすることである。平成24年度は本研究フロジェクトの第二年目であり、教育が健康に与える影響について研究を進めた。この研究では、親の教育水準が高いほど子供の病気を正確に評価できるという仮説を、二つの自然実験的状況((1)医療保障制度改革、(2)教育制度改革)を利用することで検証する。現在、親の教育水準と子供の健康間の除外変数(遺伝的な健康状態、時間選好など)を考慮した研究の蓄積は進んでおらず僅かに、母親の教育水準と乳幼児の健康の因果関係が明らかになりつつある状況である。本研究の分析方法を用いることで、これまで因果関係が明らかになっていない、母親の教育水準と小児の健康の因果関係を明らかにすることができる。 本年度は、前年度にタイの家計調査データ(Health and Welfare Survey、2000、2003、2004、2005)から構築したデータセットを用いて分析を行った。このデータセットを用いて、観察された子供の入院率の医療保障制度改革前後の変化と親の教育水準の関係について分析を行った。分析の結果、以下の4点が明らかになった。(1)就学前の子供は、母親の教育水準が低い場合のみ制度導入によって、他のグループよりも入院率が有意に高くなった。(2)この入院率の上昇によって、就学前の子供の入院率は、就学後の入院率と同程度なったので、就学前の子供が過剰な医療サービスを受けたわけではない。(3)父親の教育水準は子供の入院率の変化とは、有意な関係ではなかった。(4)全国レベルの死亡統計によると、制度改革によって、就学前の子供の死亡率のみが減少していた(約43%減少)。従って、分析の結果より母親の教育水準が低いほど子供の健康評価能力が低く、その結果として、子供の健康資本の蓄積が阻まれることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度から進めている研究の改訂を行い、いくつかの学会・研究会で報告した。第7回応用計量経済学コンファレンスでは、最終的な分析は終わってはいないものの優秀論文賞を受賞することができた。受賞後は、この研究を改善するために必要な統計資料、および今後の研究に用いる統計資料を収集した。従って、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で、研究計画の変更はない。まず、本年度まで進めてきた教育が健康に与える影響に関する研究は、追加的な分析およびサイドエビデンスの収集・考察を行い完成させる。来年度中には、国際雑誌へ投稿する予定である。 一方、健康が教育に与える影響に関する研究では、期待余命の延伸によって教育投資は促されるのかという仮説を検証する。来年度は、この仮説を検証するためのデータセットをタイ統計局などから収集し、分析を行う。来年度中には、いくつかの学会・研究会で発表することを目指す。
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