2011 Fiscal Year Annual Research Report
格子のQCD計算から導かれたポテンシャルによる未発見K中間子原子核の構造の研究
Project/Area Number |
11J08687
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
池田 陽一 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 格子QCD / K中間子-核子相互作用 |
Research Abstract |
未発見K中間子原子核の予言、さらにはその構造の研究には、ドライビングフォースとなるアイソスピンが0(I=0)である反K中間子-核子(KN)相互作用および、それらが結合するpi-Sigma相互作用の情報が不可欠である。実験的には、KN散乱の断面積、散乱長は理解されているが、pi-Sigma散乱の情報は未だ存在しない。本年度はこうした現状を顧みて、以下の(1)および(2)の研究を進めた。 (1)格子QCDシミュレーションによるエキゾチック・チャンネルでの中間子-バリオン間相互作用の研究 近年、兵藤・岡(東工大理)によりpi-Sigma散乱長に関する情報が重たいバリオンの崩壊により調べられる可能性が指摘された。同時に彼らの研究においてpi-Sigma散乱長をそれぞれのアイソスピンチャンネルに分割するためには、QCDから直接導かれるI=2のpi-Sigmaチャンネルの散乱長が必要となることも明らかになった。 I=2のpi-Sigmaチャンネルはクォークの消滅を含まないようなエキゾチック・チャンネルであり、このチャンネルでは、格子QCDにより相互作用を求めることが比較的容易である。 本研究では、pion質量が700、570MeVの世界においてI=2のpi-Sigmaチャンネルのポテンシャルを導出し、そのポテンシャルを用いて散乱問題を解き、散乱長を求めた。 その結果、散乱長はほとんどクォーク質量依存性を持たず、QCDの有効場の理論であるカイラル摂動論の予言とほぼ一致することがわかった。このため、カイラル外挿し現実的なpion質量でもカイラル摂動論の予言は正しいであろうと考えられる。 (2)現実的反K中間子-核子、pi-Sigma相互作用の有効模型の構築に向けた研究 本年度、イタリア国立フラスカティ研究所におけるX線分光実験により、KN散乱長が世界最高精度で決定された。この実験の与えるKN相互作用へのインパクトを調べるために兵藤哲雄助教(東工大)、Wolfram Weise教授(ミュンヘン工科大)とともに「カイラル有効模型」を構築し、この実験データの解析を行った。この結果、KN相互作用の不定性が減り、未発見K中間子原子核の探索に用いることがある程度可能になった。さらには、この研究においてさらに不定性を減らすためには、pi-Sigma散乱が重要であることが再び明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究としてKN相互作用の模型と実験データとの比較、実験が不可能な散乱データの格子QCDからの導出という、今後の研究を円滑に進めるための数値計算のテストができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究から、格子QCDを用いたポテンシャルの計算で、エキゾチック・チャンネルのようなクォークが中間状態で消滅しない場合は斥力芯が存在することがわかった。これはQCDの持つ対称性と非常に密接に関連している可能性を示唆しており、ハドロン間の強い相互作用の様相の起源を知るために、QCDとは違ったガージ対称性を持つが見通しの良いSU(2)ゲージ場の理論において相互作用の導出を進めることもスタートさせた。この研究は格子QCDから導かれるポテンシャルの方法論の確立という側面も含んでおり、今後、研究課題を進めていく上での道標となる重要な研究でもある。
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