2012 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本におけるナショナリズムの観察と記述の問題:構築主義の批判的検討を通して
Project/Area Number |
11J09138
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新倉 貴仁 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ナショナリズム / 文化 / 知識人 / 文化社会学 / 知識社会学 / 現代社会論 / 消費社会論 |
Research Abstract |
本研究は、近代日本における〈国民〉と〈個人〉についての観察と記述の実践を分析すること通じ、ナショナリズムの社会学的な解明をめざす。第一に、第一次大戦後に生じた「文化」と「国民」への注目の意義を考察する。第二に、1930年代における批判的知識人の活動を、「文化」と「国民」の観点から、第一次大戦後から第二次大戦後の議論へという流れの中に位置づける。第三に、丸山眞男や藤田省三ら、戦後の批判的知識人のなかでのナショナリズムの意味を考察する。 前年度の研究成果の報告として、第一に、Cultural Typhoon 2012(7月14日、15日)にて、「戦後日本とカルチュラル・スタディーズ」という報告を行った。これは、1960年代はじめにおけるカルチュラル・スタディーズの導入について、特に丸山眞男の活動との関連から考察するものである。第二に、日本社会学会(11月3日、4日)にて、「戦後日本におけるナショナリズム言説の連続と非連続-国民の主体」という報告を行った。これは、1960年代から1970年代にかけて生じたナショナリズムについての言説の断絶について、知識社会学的に考察するものである。 今年度の研究として、1920年代に生じた文化主義の言説の追跡を行った。この作業を通じて、1940年代に成立する非政治な「大衆教養主義」という従来の学説を批判的に再構成する可能性がひらけてきた。具体的には、ナショナリズムとデモクラシーという観点から、吉野作造、阿部次郎、柳田國男といった知識人の言説の分析を行っている。 以上の研究は、日本におけるナショナリズムを、第一世界大戦後に生じた社会変容と、1960年代末の消費社会の成立にともなう社会変容のなかで考えるものであり、ナショナリズム研究のみならず、日本社会の考察としても、きわめて重要な意義をもつと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一次世界大戦後から1960年代末までという時期設定、ナショナリズムを考察するにあたって「文化」の概念を主軸とすることなど、研究の意義がより鮮明となった。知識人の言説と社会状況との界面についての研究として、当初の計画以上のものが達成されることが期待される。だが、それにともない作業量が増大し、やや進捗が遅れ気味となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度の研究課題は、この二年間に行ってきた研究の内容を、博士論文としてまとめることにある。あわせて、研究の理論的枠組みの一部、とりわけナショナリズム研究についての部分を独立して単著とすることをめざす。 第一次大戦期から1960年代末までのナショナリズムと文化の関係という問題は、社会学を超えて、政治学や思想史、経済学などの多分野に関連する。そのため、渉猟すべき資料・文献が多くなっている。進捗管理の徹底を通じて、対処していきたい。
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