2012 Fiscal Year Annual Research Report
最先端の南極大型大気レーダーを用いた極中間圏雲と中間圏大気波動の物理の解明
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11J09377
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高麗 正史 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 極成層圏雲 / 極中間圏雲 / 中層大気 / 大気力学 / ブロッキング高気圧 / 捕捉波 |
Research Abstract |
前年度、南半球における対流圏上層の雲(UC)と極成層圏雲(PSC)の同時出現についてのメカニズムの解明を目的としたデータ解析を行い、同時出現の機構において、対流圏のブロッキング高気圧(BH)が主要な役割を担うことを示した。今年度は、衛星観測データからPSC粒子のタイプを判別するアルゴリズムを用いて、PSC粒子の変化を詳細に調べた。BHの上を通過した空気塊に注目すると、BHの風下では、硝酸を含む粒子の割合が増加していた。先行研究において、硝酸を含むPSCが重力落下し、硝酸濃度が低下することで、オゾン破壊物質が極域成層圏に効率的に蓄積されることが示されている。つまり、本研究は、BHがPSC出現頻度及びタイプの変化を介して、オゾンホールの変動に影響を与えることを示したことになる。この成果を論文としてまとめ、Atmospheric Chemistry and Physicsに出版した。 さらに、北半球についても同様のデータ解析を行った。その結果、北半球のPSCの60%以上がUCを伴って出現しており、南半球と同じようにBHの上でPSCとUCが同時に出現しやすいことを示した。さらに、BHに伴う移流偏差と温度偏差のそれぞれの影響を調べるために、粒跡線解析を行った。その結果、断熱膨張による低温に伴ってPSCがローカルに形成されていることが分かった。 これ以外にも、大気中に存在する捕捉波について理論的な研究を行った。自転角速度ベクトルの南北成分に伴うコリオリカを支配方程式に含めることを試みた結果、2種類の捕捉波を発見した。1つは東西境界に捕捉されるKelvin波であり、従来知られているKelvin波とは逆方向の南北位相速度を持ちうる。もう1つは、下部境界に捕捉されるRossby波であり、これは密度成層がない場合でも下部境界に捕捉される。この結果を投稿論文としてまとめ、SOLAに出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、衛星データを含めた南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)の解析を進める予定であったが、本年度は、前年度に得られたPSCの解析結果をまとめ、論文として出版した。さらに、中間圏観測データの理論的解釈の上で必要となる、捕捉波について研究を行い、この成果も論文として受理されている。PANSYレーダーの観測は2012年4月末に開始され、申請者は観測データの1次処理を主に担当している。データの取り扱いの知識・技術を習得しており、今後の研究を迅速に進められると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
極中間圏雲(PMC)の研究については、昨年度までに行っていた、南極Davis基地におけるライダーとMFレーダーによる観測データを用いて、温度移流に注目したデータ解析を行う予定である。PANSYレーダーは1/4システムでの連続観測が実施されており、中間圏の乱流エコーに基づく継続的な風速推定は難しいと考えられる。そこで、PANSYレーダーによる対流圏・下部成層圏観測のデータに、再解析データと衛星観測データを組み合わせて、対流圏・下部成層圏における雲と風速の関係を調べる予定である。
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