2011 Fiscal Year Annual Research Report
生体熱工学及び細胞生物学的手法を併用した成熟神経細胞の凍結融解挙動の解明
Project/Area Number |
11J09393
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Research Fellow |
植村 真 九州工業大学, 大学院・生命体工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 凍結 / 融解 / 氷結晶 / 成熟神経細胞 / 形態 / 生存性 |
Research Abstract |
生体凍結の応用である凍結保存では、細胞や組織の損傷・保存のメカニズムは未だ十分には解明されていない。また、応用上重要な、成熟神経細胞(神経突起を有する)の凍結・融解挙動の研究は未だほとんど行われていない。この背景において、本研究課題では、成熟した神経細胞の凍結・融解における詳細な情報を得ることを目的とする。 本年度は、まず、実験材料である成熟神経細胞(分化型PC12細胞)を安定的に得るための条件(血清濃度)検討を行い、この実験結果を元に細胞分化の反応速度論的モデル化を行った。モデル化は、関連プロセスや手法の定量的評価、設計・最適化などの点から有益である。 次に、条件検討によって決定した血清濃度を用いてPC12細胞を分化誘導し、成熟神経細胞に対する凍結実験を行った。結果は以下のようである。 1)細胞外凍結では、細胞体は明瞭に脱水・収縮・変形し、神経突起でも脱水・収縮する。細胞内凍結は、細胞体で優先的に発生し、冷却速度の増加に対して、神経突起の根元からかなり離れた位置まで氷結晶の形成が及ぶ。 2)凍結・融解後、神経突起に特徴的な形態変化(数珠状化や短小化)が生じた。これらの形態変化は、神経ネットワークの機能に大きな影響があると考えられる。 3)免疫細胞化学染色により、凍結・融解後の神経細胞のNeurofilament L(中間径フィラメント)は、数珠状化した突起では数珠状化し、短小化した突起では湾曲やたわみなどによる長さ方向への収縮が見られることを明らかにした。数珠化や短小化の詳細なメカニズムの解明には、今後の更なる検討が必要である。 4)凍結・融解後の細胞の生存率は、冷却速度には依存せず、到達温度の低下に対して単調に減少した。本報の実験条件の範囲では、最低到達温度があまり低くないため、細胞外凍結による損傷原因(細胞外凍結による溶液効果、氷結晶からの機械的作用など)が主であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、まず、1)実験材料(成熟神経細胞)準備の条件検討を行い、その実験結果に基づいて、細胞分化の数学的モデルを提案・展開した。次に、2)生理食塩水中での成熟神経細胞の凍結特性を詳細に解明した。1)に関しては、国内での学会発表(2件)を済ませ、国外での学会発表(発表確定)を予定していると共に、学会誌等への発表が掲載可となっている。また、より発展的な内容を米国機械学会論文集J. of Biomechanical Engineeringに論文投稿する正に直前である。2)に関しては、国内での学会発表(3件)と国外での学会発表を済ませ、現在、日本機械学会論文集とInt. J. of Low Temperature Biology and Medicineへの投稿論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、主に生理食塩水中の成熟神経細胞に対する凍結・融解挙動、凍結・融解後の形態変化や生存性の検討を行った。今後は、これらの検討項目に対する、凍結保護物質(DMSO)の影響を調べる。また、同時に、細胞死滅様式(アポトーシスとネクローシス)の判別や、細胞膜の電気的興奮性の検討なども行う。さらに、これらの実験結果に基づいた、凍結による成熟神経細胞の損傷・死滅の数学的モデル化の展開を行う。 得られた研究成果は、日本機械学会講演会(熱工学部門、および、バイオエンジニアリング部門)にて研究発表すると共に、日本機械学会論文集、Cryobioloyなどの学術誌に論文投稿する。
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Research Products
(7 results)