Research Abstract |
【マグマオーシャンの酸化還元状態の検討】これまで本研究では,マグマオーシャン冷却過程におけるマグマの酸素分圧を考慮する際,月の揮発性元素の欠乏を考慮して,酸素の出入りのない系を仮定していた(Sakai et al., 2011, LPSC).しかしここ数年の高精度のSIMS分析による研究から,従来思われていたよりも月マントルに水が含まれていた可能性が示唆され始めている(Greenwood et al., 2011 ; Hauri et al., 2011 ; Boyce et al., 2010 ; Saal et al., 2008).このことと,海の玄武岩の岩石溶融実験から上部マントルの酸素分圧が~IW-1程度であると主張されている(Wellman, 1970 ; Sato et al., 1973)ことを考慮して,本研究の熱力学計算の結果を検討し直したところ,斜長石析出時のマグマオーシャン組成は,今までの結果よりFeO量に富む可能性が示唆され,制約される組成範囲がよりマグマ中のMg#の値にsensitiveであることがわかった(Sakai et al., 2012, LPSC)星この結果はマグマオーシャンの酸素分圧と多段階結晶分別過程をともに考慮した初めての結果であり,地球物理学的手法(バルク密度,慣性能率)から示唆されてきた月のFeO量の上限値が,結晶の分別過程を考慮した地球化学的手法からの制約とも整合的であることを示す重要な結果である. 【斜長石分離モデルの再検討】学会において、流体力学の示唆から現在月科学で慣習的に考えられている対流層で斜長石が浮上して分離するモデル(Tonks & Melosh, 1990)ではなく,境界層で分離するモデル(Solomatov et al., 1993 ; Martin & Nokes, 1989)から検討する必要を指摘されたので,より現実的な境界層で分離するモデルを取り入れることで本研究の結果に与える影響を検討した.その結果,T&Mモデルと境界層モデルとは理論式は異なるものの,最終的な値はorderでは変わらなかった.これは,T&Mモデルでも分離に関する係数は結晶分離実験から得られた経験値を代入していたため,最終的な分離条件は(実験条件の範囲内で)現実の値に合うようになっているためと思われる,しかし,T&Mモデルで用いた実験範囲外の分離メカニズムを議論する際には,現実に基づく理論式を用いる必要があるため,今後の研究では境界層モデルを用いる。新しい境界層モデルでは,結晶の分離効率は系に出入りする熱流量と結晶粒径に大きく依存することがわかり,熱を考慮した分化モデルの構築と,月試料の観察・分析から,上述の鉱物組成と合わせてマグマオーシャンから分離した斜長石の粒径の情報を得ることが,より信頼性の高い制約をするために必要であることが認識された,
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