2011 Fiscal Year Annual Research Report
境界としての井戸、門、橋―中国古典詩歌と小説に基づく考察―
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11J09463
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
喜多 藍 (山崎 藍) 法政大学, 文学部, 特別研究員(PD) (10723067)
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Keywords | 元〓 / 「夢井」 / 悼亡詩 / 井戸 / 李白 / 「長干行」 / 旋回儀礼 / 葬送 |
Research Abstract |
本研究は、中国古代の人々が、井戸や門、橋にどのような認識を持っていたかについて検討を加えることを目的としている。本年度は主として「井戸観」に関する研究を進め、具体的には以下の作業を行った。 (1):井戸および井戸の周囲で行う動作がもつ意味を分析する一環として、中唐・元〓の悼亡詩「夢井(井を夢む)」において、男性が夢の中で二度行った「遶井」(井戸をめぐる)という行為に着目して分析を行い、その成果を平成23年12月に中国文化学会第20回例会において口頭発表した(発表名「中国古典文献に見る旋回儀礼の一端-元〓の「遶井」・李白の「遶牀」-」)。ものの周囲をめぐる行為については日本民俗学や歴史学に先行研究があり、神霊の送迎や婚姻等、様々な儀礼の一環として行われていたことが指摘されている。報告者は上記成果を踏まえ、残された人々が墓や棺、死者をめぐる行為を描いた経書、詩歌、仏典等の分析を通して、男性が二度「遶井」を為さなければならない理由を考究し、合わせて、李白「長干行二首・其一」に詠われる「遶牀」(牀をめぐる)という語を検討する意義と研究の方向性を述べた。ものの周囲をめぐる行為の他にも、一定の形式をもって繰り返し行われる行為はある種の意味を持っていることが想像され、このような行為の意味を研究することは、文学作品の理解を深める上で大きな意義を持っていることが、本発表から明らかになった。 (2):(1)の成果の一部をまとめ、『東方学』第123輯に論文を公表した(論文名「死者を悼んで旋回する-元〓「夢井」における「遶井」の意味-」平成24年1月)。 (3):コロンビア大学C.V.スター東亜図書館にて文献調査を行った他(平成23年4月)、中国陳西省西安および楡林に赴き、陳西省考古研究院王偉林院長、楡林市文物考古工作隊袁政教授、康東武教授の協力を得て、井戸や門、橋を描いた漢闕や漢代画像石の調査を行った(平成23年8月)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究テーマのひとつである「境界としての井戸」を中心に、中唐・元〓の悼亡詩「夢井」において二度行われた「遶井」という行為の分析を推し進め、志怪小説や唐詩、経書、歴史書、仏典『大パリニッパーナ経』、日本の民俗調査等、幅広い資料を取扱い、先秦から現代に至るまで通時的に整理した。詩論研究において、民俗学、宗教学、比較文化的観点を取り入れる独自の方法論を用いたことが評価され、研究発表と論文上梓の成果を挙げることが出来た。以上の点から、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果を踏まえ、元種「夢井」「遶井」と同様に「遶」という動作がなされる、李白「長干行二首」其一の「遶牀」という語の意味を検討する。「長干行二首」其一については多くの先行研究があるが、第四句「遶牀弄青梅」に詠われる「遶牀」、すなわち「牀をめぐる」という「行為」に着目した論著は管見の限りない。また、第四句の「牀」が井牀であった場合、少年少女の初恋が井戸を背景に詠まれたと解釈されるが、管見の限り、六朝までの詩歌には初恋を井戸に託した作品は見あたらない。報告者は、「青梅」が「民俗的に、男女の愛の象徴ともなりえた」とする先行研究を踏まえた上で、日本や中国をはじめとした世界各国における旋回儀礼や、敦煌文献、史書、小説等の記載を通して、「長干行二首」其一の解釈を提起する。合わせて、中国古典文献における井牀の描かれ方を確認し、中国古代における「井戸観」をより深く理解することを目指す。成果の一部は、平成24年7月7日に開催される「中国社会文化学会2012年度大会」において口頭発表する予定である(採用決定済、査読有り)。
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Research Products
(2 results)