2012 Fiscal Year Annual Research Report
境界としての井戸、門、橋―中国古典詩歌と小説に基づく考察―
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11J09463
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
喜多 藍 (山崎 藍) 法政大学, 文学部, 特別研究員(PD) (10723067)
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Keywords | 元? / 夢井 / 悼亡詩 / 井戸 / 李白 / 長干行 / 旋回儀礼 / 婚礼 |
Research Abstract |
本研究は、中国古代の人々が、井戸や門、橋にどのような認識を持っていたかを考察し、中国古代における「井戸観」「門観」「橋観」を明らかにすることを目的としている。平成24年度は昨年度に引き続き「井戸観」に関する研究を主として進め、具体的には以下の作業を行った。 (1):昨年度検討した元積「夢井(井を夢む)」で二度用いられた「遶井(井を遶る)」研究をさらに深めるべく、李白「長干行二首」其一で詠われる「邊林(林を邊る)」に着目し、この詩の新たな解釈を提示した。その成果は、平成24年7月に中国社会文化学会2012年度大会で口頭発表した(発表名「遶牀」について-李白「長干行二首」其一の解釈と旋回儀礼一)。 またこの口頭発表で得た成果をさらに深め、『中唐文学会報』第19集に論文として公表した(論文名:「「遶牀」について~李白「長干行二首」其一の解釈と旋回儀礼」)。 (2):(1)および、博士課程在籍時から昨年度の成果をまとめ、東京大学に博士審査論文を提出した。(論文名:「中国古典文学に描かれた厠と井戸の研究正と負の厠神・井戸をめぐる・轆轤と瓶」)審査会は3月27日に開催され、博士号授与の見込みとなった。 (3):昨年度に引き続いて、井戸や門、橋、瓶(つるべ)を描いた漢闕や漢代画像石に関する研究を進めるべく、平成24年8月に二松学舎大学専任講師や青山学院大学非常勤講師らとともに中国内モンゴル自治区に赴いた。その際、内蒙古和林格爾盛楽博物館の閻安館長、内蒙古自治区文物考古研究所の張紅星福研究員、陜西省考古研究院王〓林院長らの協力を得て、後漢時代に出来たホリンゴール漢墓の現地調査、および、ホリンゴール漢墓の内部を忠実に複製した壁画の調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本や中国をはじめとした世界各国における旋回儀礼や、敦煌煙文献、史書、小説等の記載を通して、従来井戸を描いているとされていた「長干行二首」其一が井戸を描いたものではないとの結論を得つつ、中国古典文献における井牀の描かれ方を確認し、中国古代における「井戸観」をより深く理解出来た。また、今年度はそれまでの成果をまとめ、博士論文「中国古典文学に描かれた厠と井戸の研究厠―正と負の厠神・井戸をめぐる・轆櫨と瓶―」を提出した。厠と井戸という民俗学的な観点から、中国古典詩に対して新たな解釈を提示し、膨大な資料を整理した結果得た結論は、博士学位取得に値すると評価された。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度、本年度と継続した中国現地調査で得た、門、橋、瓶に関する成果を応用する。境界的領域として描かれている門や橋の出土文物は、どちらも「後漢」に出土している。そこで地域、時代毎の変遷、および、申請者が分析を進めている井戸や厠がもつイメージとの差異を、中国や日本、欧米の文献資料から検証する。また、先行研究によれば、三国(東呉)から西音にかけての時期、長江下流域の墓にしばしば神亭壼という壺が納められ、死者の魂はこの神亭壺を通じて祖霊達の世界へ赴き、逆に死者の魂を招く際はこの壺が依り代となって魂がこの世に帰るとされたとある他、浙江省一帯では今でも同様の壺が「魂瓶」等と呼ばれ、後漢楊氏墓から出土した壺上の朱書には、「瓶」を経過して死後の世界に赴くと記されている例があることなどが指摘されている。今年度は資料を更に収集し、中国文献における「魂の依り代」としての壺状の容器が果たした役回りについて分析を進める。最終的に門、橋、瓶が詠まれた古典詩歌や小説を検討し、新たな解釈を提示することを目指す。
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Research Products
(3 results)