2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J09482
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
松本 幸代 (島守 幸代) 学習院大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 言語障害 / 言語学 / 吃音 / 言語発達 / 日本語 / 言語知識 / 言語処理 |
Research Abstract |
言語障害の研究においては言語学の知見が不可欠であると思われる。しかし、わが国において、言語学の知見に基づいた言語障害研究はほとんど行われていない。本研究の目的は、主に音韻に関わる側面に問題があることが指摘されている吃音という言語障害を中心に、日本語を母語とする言語障害児の言語知識及び言語処理の問題を言語学の知見をふまえて検討することである。 筆者は、日本語の吃音は語頭音節の核母音から後続する分節素への移行(例 : 花火(ha. na. bi)のaからnへの移行)が困難であることによって生じるという仮説を提案してきた(Matsumoto-Shimamori, Ito, Fukuda, & Fukuda, 2011)。今年度は、語頭音節の核母音からの移行の困難さに語アクセントが影響するのかどうかを学齢期の吃音児25名を対象に検討した。その結果、語アクセントは移行の困難さに影響を及ぼさないことが明らかになった。この研究結果を中核とした論文が、Clinical Linguistics & Phoneticsの2013年9月号に掲載された。 また、これまでの研究は吃音児の言語知識・言語処理の中でも音韻的側面に視点を当てたものであり、統語的側面については検討していない。そこで、今年度は、語頭音節の核母音からの移行の困難さに統語的要因が影響するのかどうかを学齢期の吃音児28名を対象に検討した。その結果、統語的要因は語頭音節の核母音からの移行の困難さには影響を与えないことが示唆された。この研究内容を2013年11月に行われたAmerican Speech-Language-Hearing Association Conventionで発表した。 さらに、吃音のある幼児1例の発話を1年間にわたり収集したところ、幼児期においても学齢期と同様に、語頭音節の核母音からの移行が困難であることが示唆された。この研究結果を第1回日本吃音・流暢性障害学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、吃音という言語障害を中心に、日本語を母語とする言語障害児の言語知識及び言語処理の問題を言語学の知見をふまえて検討することである。吃音の生起に影響を及ぼす音韻、統語的要因についての学齢期の吃音児を対象とした検討は極めて順調に進展している。近年、学齢期以降の吃音と幼児期の吃音には異なる点がみられることが指摘されている。今後は学齢期の吃音児において吃音の生起に関わると考えられる言語処理上の要因が幼児期の吃音においても影響を及ぼすかについての検討を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は、学齢期にある吃音児を対象とした研究を継続することにより、吃音の生起に関わる音韻、統語的要因をさらに明らかにし、研究の仕上げとする。また、26年度は特に幼児期の吃音児を対象とした研究に力を入れる。従来の研究から、幼児期の吃音は統語発達のみならず、音韻発達の影響も受けると考えられるが、統語的要因が吃音の生起に及ぼす影響は時間がたつにつれ消失するといわれているのに対し、音韻的要因の影響については学齢期以降の研究でも多数報告されている。このような違いがなぜ生じるのかなどについて検討する必要がある。これまで対象としてきた吃音を有する幼児1例の縦断研究を継続するとともに、可能であれば他の幼児も対象に加える。
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Research Products
(7 results)