2011 Fiscal Year Annual Research Report
がんの発生と進展に関わる新規脂質キナーゼの機能解明
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11J09537
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
浅沼 研 秋田大学, 大学院・医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | イノシトールリン脂質 / PI3K / Akt |
Research Abstract |
本研究の目的は、哺乳動物における PI3P 生成酵素 PIK3C3 の生理機能を解明するとともに、PTEN を欠損する癌への PIK3C3 の影響を明らかにし、癌への治療に役立ちうる知見を得ることである。 癌への PIK3C3 の影響解析は、既に発癌モデルとして確立されている PTEN 欠損マウスと、PTEN と PIK3C3 の両分子を欠損する二重欠損マウス(以下、二重欠損マウス)を比較する事で行った。全身性の PTEN 欠損マウスは胎生致死であるため、Cre-loxPシステムを用いた細胞種特異的遺伝子欠損マウスを作製した。遺伝子を欠損する細胞として、既に PTENの欠損により発癌する事が報告されている前立腺細胞とT細胞に着目し、前立腺特異的遺伝子欠損マウスと、T 細胞特異的遺伝子欠損マウスを作製した。現在までに T 細胞特異的二重欠損マウスにおいて、特に顕著な表現型を認めている。T細胞特異的 PTEN 欠損マウスは既に報告されているように、生後300日以内に全例が T 細胞リンパ腫を発症し死亡した。一方 T 細胞特異的二重欠損マウスにおいては、発癌が顕著に抑制され、それに伴う生存率の有意な改善を認めた。 また、T 細胞特異的 PTEN 欠損マウス及びT細胞特異的二重欠損マウスから胸腺の細胞破砕液を調製し、癌に関与すると考えられている各種タンパク質のリン酸化レベルの比較解析を行った。その結果、T 細胞特異的 PTEN 欠損マウスにおいては原癌遺伝子産物である Akt のリン酸化が顕著に亢進していたが、それに対し T 細胞特異的二重欠損マウスでは、Akt のリン酸化が抑制されている事を見い出した。 以上の実験結果より、PTEN 欠損による発癌が PIK3C3 欠損により抑制される事、また、その機序として Akt のリン酸化を介している事が示唆された。(以上743字)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、T 細胞特異的に PTEN と PIK3C3 を欠損する二重欠損マウスの作製を完了した。このマウスを用いた解析により、PIK3C3 欠損が PTEN 欠損由来の発癌を抑制し、生存率を有意に回復させることが明らかになった。また、PTEN 欠損により亢進する Akt のリン酸化が PIK3C3 欠損により抑制されることを見いだいしており、発癌に対する PIK3C3 の役割の一端を明らかにしつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
実験計画書に記載した前立腺特異的二重欠損マウスにおいては、T 細胞特異的二重欠損マウスと異なり、PTEN 欠損による発癌が PIK3C3 の欠損で顕著に抑制される事はなかった。原因としては、PIK3C3の発現レベルが前立腺細胞においては低く、T 細胞では高い事が考えられる。残り1年という限られた研究期間である事を考え、今後は、現在までに顕著な表現型を認めている T 細胞特異的遺伝子欠損マウスモデルに焦点を絞った解析を行い、その発癌抑制のメカニズムを明らかにする。
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