2012 Fiscal Year Annual Research Report
ジャック・デリダの思想におけるエクリチュールと歴史性について
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11J09634
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五味 紀真 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | エクリチュー / デリダ / フロイト / キットラー / ハイデガー / 一神教 / 歴史 / 形而上学 |
Research Abstract |
交付申請書に記載した通り、ヤン・アスマンの『エジプト人モーセ』の読解を中心として、ジグムント・フロイトの『モーセと一神教』の分析を行った。これにより、フロイトにとってエジプトおよび象形文字としてのエクリチュールが西洋の絶対的な他者であることを明確化することができた。この分析は、「存在史」の起源を古代ギリシアの哲学に見出そうとするマルティン・ハイデガーの著作、および存在の真理をギリシアの母音アルファベットの発明に見出そうとするフリードリヒ・キットラーの『音楽と数学』とは対照的に、一神教の起源にこそ自己自身の他者が含まれているという洞察につながった。こうした見地はジャック・デリダの形而上学の脱構築をより先鋭化したものと言えるだろう。とりわけ、ジャン=リュック・ナンシーやエティエンヌ・バリバールによって近年提示されている一神教の問題と、デリダの思想とをつなぐ意義を持っていると思われる。以上の成果は年度内の発表の機会は得られなかったものの、平成25年4月1日に東京大学で行われたGEPEF(フランス思想研究会)において「Den Entzug eines Gottes nachbereiten-一神教の脱構築とエクリチュールの歴史についての覚書」という表題の下発表を行った。 また、フロイトを扱ううえで必要な精神分析の研究も行った。とりわけジャック・ラカンの仕事と、メラニー・クラインら対象関係論の文脈の上で、『モーセと一神教』がどのように扱われてきたのかを分析した。本作業は引き続き、ユング派精神分析における神話の取り扱いに拡張する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
家族の看病のため家を長期間空けることができず平成25年3月に予定していた京都での発表を断念せざるをえなかった。そのため研究に少々の遅れが見られるが、研究の精密度、深さにおいては大きな進展があったと思われる。とくにハイデガーとフロイトの思想を存在史と一神教という観点から結び付けられたことは大きな意義を持つと思われる
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Strategy for Future Research Activity |
一神教の脱構築という問題に向かい合うためには、一神教についてのこれまでの言説を分析しなければならない。とりわけカール・シュミットの政治神学とエリーク・ペーターゾンの一神教論を詳細に分析する予定である。 また、エクリチュール研究と一神教の歴史のひとつの収束点として、ウィリアム・ウォーバートンのモーセ研究を分析する予定である。この著作はデリダも頻繁に言及しているものである。
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