2011 Fiscal Year Annual Research Report
マウスを用いた嗅覚情報処理における神経回路の分子基盤の解明
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11J09659
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青木 真理 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 神経回路 / 嗅覚系 / 僧房細胞 |
Research Abstract |
我々は外界の情報を、脳において2次元の神経地図という画像に変換して識別している。マウス嗅覚系では、鼻腔の嗅上皮に存在する嗅神経細胞(嗅細胞)は、約1000個ある嗅覚受容体遺伝子のうち、それぞれ1種類のみを発現する。また、同じ嗅覚受容体を発現する嗅細胞の軸索は、嗅球において特定の箇所に収敏して糸球を形成する。従って、嗅上皮で受容された匂い情報は、嗅球において約1000個ある糸球の発火パターンという神経地図に変換される。この嗅覚神経地図は、ターゲットには依存せず投射してくる嗅細胞軸索間の相互作用により、自律的に形成される事が明らかにされている。 嗅覚神経地図上の匂い情報がどのように高次脳へと伝達されるのかについて、近年いくつかの解剖学的知見が報告されているが、その分子メカニズムはほとんど解明されていない。そこで我々は、2次神経細胞である僧房細胞で発現する遺伝子のプロモーターを利用し、一部の僧房細胞を遺伝学的に標識した遺伝子改変マウスを作製することで、僧房細胞の可視化を試みた。いままで、嗅覚一次投射において空間的対応関係が維持されることや、嗅覚神経地図の一部が欠損した遺伝子改変マウスの解析により、僧房細胞の個性には嗅球上の自身の細胞体位置が関わると推測されていた。しかしながら興味深いことに、細胞接着因子、Kirrel3は、一部の僧房細胞で、嗅球上の位置に偏りなく散在して発現するものの、Kirrel3陽性僧房細胞の軸索は嗅皮質において偏って投射することが明らかとなった。このことから、マウス嗅覚系の2次投射において、遺伝的個性の異なる僧房細胞によって、匂い情報の抽出、分配が行なわれている可能性があることを示唆していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2次嗅覚神経細胞である僧房細胞における細胞接着因子Kirre13の発現は、1次嗅覚神経細胞非依存的であることが判明した。また、Kirrel3陽性僧房細胞は、固有の軸索投射パターンを示すが、その投射パターンも1次嗅覚神経細胞非依存的であった。これらのことから、僧房細胞は遺伝的に決定された異なる個性を持ち、それぞれが嗅覚情報処理において異なる役割を担っていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの実験結果によって、細胞接着因子Kirrel3が僧房細胞の神経個性決定に関わることが示唆された。よって今後は、Kirrel3のgain-of-functionおよびloss-of-functionの実験を行う予定である。まずは、loss-of-functionの実験として、Kirrel3遺伝子を僧房細胞特異的にノックアウトした遺伝子改変マウスを作製し、僧房細胞にどのような影響が出るのかを明らかにする。さらに、gain-of-functionの実験として、一部の僧房細胞でしか発現しないKirrel3遺伝子をすべての僧房細胞で強制的に発現させる遺伝子改変マウスを作製し、僧房細胞におけるKirrel3の役割を明らかにする。
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