2011 Fiscal Year Annual Research Report
タルドの思想における<人間>および<社会的なもの>の概念と<政治的なもの>の概念
Project/Area Number |
11J09706
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤羽 悠 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ガブリエル・タルド / 政治思想 / 社会学 / フランス / 19世紀 |
Research Abstract |
本年度は、ガブリエル・タルドの思想を広く19世紀政治・社会思想史の文脈の中に位置づけるための基礎となる研究を行った。とりわけ、『模倣の法則』、『社会法則』、『権力の変容』といった著作を中心に参照しながら本研究の一つの軸となる政治哲学とタルド社会学との関係を明らかにすることを試みた。すなわち、「模倣」において社会を見るというタルドの視点が、革命後の政治的・社会的諸思想との関係においていかなる意味や独自性を持っているのかを明らかにした。「模倣」概念は、何より個人主義時代において個人に還元されない、不可視の<社会的なもの>の作用を指し示すものであるが、この<社会的なもの>の解明という課題は政治哲学と社会学が共有するものである。19世紀後半に登場する社会学は、しばしば言われるように完全に哲学と対立するものではなく、哲学を引き継ぎながら、別の仕方でこの<社会的なもの>の解明を目指すものなのである。こうした問題系の中で「模倣」概念を捉えた時、模倣する者とされる者の間に形成されるヒエラルキーへの注目という、タルドの独自性が浮かび上がってくる。ある面で、シェイエスに始まりギゾーやサン=シモンらへと続く、革命以降の思想の中で現れる<社会的なもの>の議論とは、いわば世俗化された近代社会に密かに現れる権威およびヒエラルキーについての議論であったと言えるのであり、タルドがこの19世紀思想を貫くヒエラルキーの問題を、模倣という現象に注目しながらどのように捉えていたのかを考察することは、その思想の特徴を当時の文脈の中で把握する上で重要である。本年度既に若干の分析を試みたタルドの別のテーマ、すなわち世論や公衆の形成の問題の本質もこの点に存すると言える。本年度の研究は、以上のようにタルドの思想における「ヒエラルキー」の重要性を明らかにし、そめ思想全体を19世紀政治・社会思想の文脈で捉えるための視点を提示するものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初、主にガブリエル・タルドの哲学的基礎を扱う予定であったが、むしろタルド思想を19世紀の文脈の位置づける上での軸を明確にする作業を中心に行った。そのため当初の計画を少々修正した形となり、また、これまであまり試みられていないこの作業を行うために幅広い文献の渉猟が必要となった。しかしな添ち、この19世紀的文脈への位置づけという作業については一定の成果が得られてむり、来年度以降の見通しも立っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究において明らかになったタルド思想における「ヒエラルキー」の重要性を踏まえた研究を行う。すなわち、近代平等社会におけるヒエラルキーという観点からタルド思想と他の19世紀思想との連続性および差異の、より深い把握に努める。本年度は『模倣の法則』、『社会法則』などを中心に扱ったが、『普遍的対立』などの著作の分析にも着手し、「模倣」概念だけでなく、本来それど切り離すことのできない発明」概念の意義についてもヒエラルキーという観点から考察する。ただしフランス19世紀の政治・社会思想を網羅的に把握することは当然困難である。したがって、テーマを「ヒエラルキー」に絞った上で、さらに19世紀において重要な参照点、あるいは批判の対象であったルソーの思想をその出発点としながら、タルド思想の意義を明ちかにする作業を進める予定である。
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