2012 Fiscal Year Annual Research Report
タルドの思想における〈人間〉および〈社会的なもの〉の概念と〈政治的なもの〉の概念
Project/Area Number |
11J09706
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤羽 悠 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ガブリエル・タルド / ヒエラルキー / 近代社会 / フランス / ジャン=ジャック・ルソー / ルイ・デュモン |
Research Abstract |
本年度の研究は主に、タルドの模倣論における「ヒエラルキー」概念の重要性を踏まえ、その問題の射程を、タルド思想に関連付けられうるいくつかの思想を主に分析することで、より一層明確にすることに当てられた。 まずは、ルイ・デュモンによって概念化された「ヒエラルキー」の概念をもとに、近代における精神的なヒエラルキーの問題系をより一層精緻に定式化することが目指された。すなわち、デュモンの批判的考察を通じて、近代におけるヒエラルキーという問題における最も重要なテーマが、フランス革命後の社会における社会の自己生成作用とヒエラルキーとの関係であるという点を明らかにした。本研究はこうして、革命後のフランス政治・社会思想を、この社会の自己生成とヒエラルキーとの関係を論じる様々な概念装置の産出、議論の展開として捉え、その中にタルドの思想を位置づけることになる。 このような観点からすれば、革命後の思想に大きな影響を及ぼすことになるルソーの思想の参照は不可欠である。本年度の研究の後半は、主にこのルソーの分析に当てられることになった。ルソーの社会契約論は、ホッブズらのそれとは異なり、人民主権の概念の下に、社会に真に内在的な自己創設のモデルを提示している。ただし、このモデルは、同時にそのような自己創設の論理に内在する矛盾を浮かび上がらせることになっている。ルソーの思想は、それが社会の自己生成のモデルであるという意味で、革命後の思想の前提を構成しているが、他方でそのような前提の下で解決しなければならない自己創設とヒエラルキー、あるいは権威との間の緊張関係も明るみにしている。 このように、ルソーといういわば基準点を分析し、近代思想の前提とそこでの課題を明確にすることで初めて、タルドの〈社会的なもの〉の議論を、革命後のデモクラシー社会をめぐる思想の文脈に位置づけることが可能となるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究は、タルドを革命後の思想の文脈に位置づける上で不可欠な土台を明確にすることができたという点で、有意義なものであったが、他方で、そのようなにして明らかになった革命後の政治・社会思想の前提をタルドの思想それ自体と明確に関連付けて論じるという作業にまで、あまり踏み込むことができなかったという点においては、若干不十分な面があった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度明確にした点を踏まえて、本年度の研究は、タルドの思想を本格的に19世紀の政治・社会思想の中に位置づけること、そして、その中でのタルドの独自性を明らかにすることに当てられる予定である。そこでの軸は、あくまでこれまでも重視してきた「ヒエラルキー」の問題であるが、それとの結びつきで、近代における権威のあり方、そして権威と権力との関係の問題へと議論を発展させていくことになる。さらに、やはり前年度において明らかにしたルソーの思想も踏まえ、認識論的な観点からも、政治哲学と区別されうるものとしてのタルドの「社会学」の意味・独自性を明らかにする作業を行うこととしたい。
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